急激に進む原油安により、日銀が掲げる「2年程度で2%」の物価上昇目標が窮地に追い込まれている。原油価格急落を受け、消費者物価指数の上昇率は2015年春ごろには0.5%程度まで落ち込むとの見方が強く、日銀の目標達成はますます遠のく見通しとなっているためだ。企業や家計にとって恩恵も大きい原油安を、日銀だけが喜べない異常事態となっている。
「そろそろ反転してくれてもいいのだが......」。日銀幹部はこのところ、下げ幅を強める原油安の動向に気をもんでいる。国際原油価格は夏以降、5割近くも急落。国内の物価にも大きく影響し、4月に前年同月比1.5%まで上昇した消費者物価指数の上昇率(生鮮食品と消費増税の影響を除く)は10月に0.9%と、とうとう1%を割り込んだ。
消費者物価は15年4月に0.5%程度まで伸びが鈍化?
世界経済の減速や米国の「シェールオイル」の増産、石油輸出国機構(OPEC)の減産見送り(11月下旬)を背景に、「原油の供給過剰は当面続く」との見方は強く、原油価格がどこで下げ止まるのかは見通せない。市場では「日本の消費者物価指数は15年4月に0.5%程度まで伸びが鈍化するだろう」との予想が大勢だ。
ただ、原油価格の下落は企業や家計にとって朗報だ。急激な円安進行で輸入原材料が値上がりし、中小企業や家計はコスト増や食品などの値上げに悩まされてきたが、原油安によるガソリンや灯油、電気料金などの値下がりである程度、負担が相殺される。現状の原油安が続けば「数兆円の減税に匹敵し、国内総生産(GDP)を押し上げる」(アナリスト)効果が期待できる。
日銀ももちろん、「原油価格の下落は日本経済にとってプラス」(黒田東彦相殺)とみている。それにもかかわらず幹部らの顔色がさえないのは、10月末に「原油価格の大幅な下落が物価下押し圧力として働いており、デフレマインドからの転換を遅延させるリスクがある」として、追加緩和に踏み切ってしまったためだ。黒田総裁は追加緩和を決めた金融政策決定会合後の記者会見で、2年程度で2%の物価上昇目標を達成するため「何でもやる」と改めて気合いを示してみせた。