大韓航空のファーストクラスで皿に盛られるはずの「マカダミアナッツ」を袋のまま提供されたことに女性副社長が激怒し、 乗務員を下ろすため離陸寸前の旅客機を引き返させた、いわゆる「ナッツリターン」騒動がいまだ韓国で収まらない。
騒動を起こした「ナッツ姫」こと、趙顕娥(チョ・ヒョンア)副社長(40)と、その父で大韓航空会長の趙亮鎬(チョ・ヤンホ)氏(65)がすでに謝罪するなど火消しに懸命だが、むしろ事態は拡大しているようだ。
唯一の目撃者にカレンダーと模型で謝罪 「これってコメディーでしょ?」
「ナッツリターン」騒動をきっかけに、趙顕娥(チョ・ヒョンア)前副社長のワガママぶりや、大韓航空の「事なかれ体質」がクローズアップされている。
チョ・ヒョンア前副社長は米国の大学でホテル経営学を専攻。1999年の卒業後、大韓航空に入社し2006に常務、12年には副社長に就任するスピード出世。その一方で、韓国ではかねて「ワガママ娘」として知られていたという。
今回の騒動でも、「ナッツ姫」は当初、「サービスの欠点を指摘するのは副社長の仕事」と強気だったが、航空機内の指揮権が機長にあることを指摘され、「副社長とはいえ、越権行為だ」と非難されると、今度は「引き返しは機長がやったこと」と責任を転嫁。さらに12月9日にはサービス担当役員から外れることを発表したが、副社長の職務は続けるという往生際の悪さに批判の声が高まり、翌10日に副社長職の辞任に追い込まれた。
それにもかかわらず、チョ前副社長から暴言を浴びせられ、暴力を振るわれたとされるチーフパーサーを、会社ぐるみで懐柔しようと画策。大韓航空の役員がチーフパーサーを呼び出し、確認書の書き直しを要求。チーフパーサーは「小学生が書き取りで間違えたとき、先生に『書き直しなさい』と言われるように、10回も修正させられた」という。
また、大韓航空が唯一の目撃者であったファーストクラスの乗客も懐柔しようとしていた。12月15日付の韓国紙、ハンギョレによると、韓国検察が参考人として呼び出した、チョ前副社長の前に座っていた韓国人女性(32)は、検察の調査を受けた後、報道陣に「事件のストレスで帰国後に大韓航空に抗議したが、何の連絡もなかった。事件が報じられた後、大韓航空の役員に『おわびに大韓航空のカレンダーと飛行機模型をあげる』と電話で言われた。そして『マスコミには確かに謝罪を受けたと言ってくれ』とまで言われた」と語った、と報じている。
こうした報道に、韓国のインターネットでは、
「大韓航空は人をばかにしている。今までこんな考え方で経営してきたなんて信じられない」
「カレンダーと模型で謝罪? これってコメディーでしょ??」
「金でできたカレンダーと模型だったかもしれない」
と、失笑を買っている。
目に余る傍若無人ぶりに韓国人も怒り心頭
さらに韓国メディアは、「ナッツ姫」の過去の暴言・暴挙をこぞって報じている。
2014年12月16日付の聯合ニュースは、6年前にチョ前副社長が理事を務める大学で、洪承湧(ホン・スンヨン)学長を辞任させたとの疑惑が浮上。大学職員の証言として、「趙氏が洪氏に書類を投げつけ、暴言を吐いたため洪氏は立腹した」と説明。また、「趙氏がほかの理事会出席者の面前で父親ほど年上の洪氏に暴言を吐いたことに、洪氏がショックを受けて辞任したと話した」と報じている。
洪氏と、「ナッツ姫」の父で大韓航空の趙亮鎬会長とは高校の同級生。このときも、趙会長が洪氏に謝罪したが、事態の収拾は難しかったようだ。
また、週刊文春WEB(12月17日付)によると、双子を授かった際にはたまたまハワイに転勤し、現地で出産した直後に韓国へ戻ってきたことが「子供に米国籍を与えて兵役逃れさせようとしている」と非難された。しかも、インターネットでこうした批判を書き込んだ人を、検察に名誉毀損で告訴したと伝えられている。
自身の悪口を気にして、大韓航空のキャビンアテンダントのカカオトーク(韓国版LINE)をチェックしていた、人権侵害があったともいわれる。
「ナッツ姫」と大韓航空の目に余る傍若無人ぶりに、さすがの韓国人も怒りが噴き出しているようだ。
一方、思わぬ余波もある。韓国の東亜日報(12月12日付)によると、「ナッツリターン」騒動のきっかけとなったマカダミアナッツが、インターネットユーザーのあいだで話題となり、大韓航空で提供されたものと同じブランドのナッツがあちらこちらで品切れになっている。
12月17日付の朝鮮日報オンラインは、韓国のポータルサイト大手、ダウムの掲示板で大韓航空の社名やロゴの変更を求める署名活動が展開されていて、同日までに約2000人が署名した。今回の騒動が海外でも報じられ、「韓国に恥をかかせた」ため、社名を変えるべきとの主張という。