議会の廊下で許可を得ずに録音したとして、東京都の渋谷区議会が、東京新聞の記者に抗議して警察に通報する事態になった。なぜそこまでもめているのか、ネット上でも話題になっている。
2014年12月9日の渋谷区議会は、ドイツの連邦議会を視察した区議がセキュリティチェックの様子を「ナチスのガス室」になぞらえた問題で紛糾していた。
東京新聞は「公の場での問題ない取材活動」と反論
東京新聞の10日付記事によると、記者は本会議前の議会運営委員会を傍聴し、休憩を告げられて指示通りに退室した。しかし、委員会室内で区議同士が怒鳴り合う声が聞こえたため、取材に必要だと判断し、廊下で録音を始めた。
ところが、部屋から出て来た議会事務局の職員らが「盗み録りしているのか」と記者を取り囲み、録音を止めるよう求めた。庁舎内での録音などは管理規則で事前の許可が必要となっており、それに違反していたというのが理由だ。記者は録音を止めたが、一部区議が「盗聴だ。警察を呼べ」などと言い、職員がそれに従って警察に通報した。記者は駆け付けた警察から10分ほど事情を聴かれたものの、違法行為とはされなかったという。
しかし、区側はその後も、東京新聞の取材に抗議し、録音の消去と謝罪を求めてきた。
これに対し、東京新聞は記事で、社会部長が「公の場での問題ない取材活動」だとコメントし、録音消去などを拒否することを明らかにした。知る権利に詳しい弁護士も「報道目的であれば許可が必要とはいえず、盗聴にも当たらない」と擁護した、と書いている。確かに、国会などでも、記者が録音機を持ったり壁に耳を当てたりして会議の様子を取材するのは、普通に見られる光景のようだ。
なお、赤旗の13日付記事によると、議運の休憩中には、与党区議が共産区議に「黙れ、ぶっ殺すぞ」と発言し、その後、与党区議が発言を撤回して謝罪している。東京新聞が報じた区議同士の怒鳴り合う声とは、このことを指しているらしい。
記者が廊下で録音していたことについては、ネット上でも、議論になっている。
「ドアの隙間から録音する不審者だったので通報」
厳しい意見としては、「記者だったらなんでも録音していいのか」「ルール守らないなら出入り禁止処分でいい」「無許可のくせに何が『正当な取材活動』だよ」といった声が出た。
一方で、「取材用の録音で許可制?変なの」「警察を呼ぶのはやり過ぎ」と渋谷区側に批判的な声もあった。共産党の五十嵐千代子渋谷区議は、ツイッターで「取材していた記者への対応は、許してはならない」と指摘した。
なぜ警察まで呼んだのかについて、渋谷区の議会事務局次長は、取材にこう説明する。
「記者の方は、常識から外れた行動をしており、廊下にかがんだ姿で、委員会室のドアの下にある吸気口にボイスレコーダーを押し当てていました。職員が通りかかって声をかけたところ、当初は録音さえ認めず、きちっと返答をせずに立ち去ろうとしました。挙動不審だったので、110番通報したわけです。こうした不可解なことがなければ、警察を呼ぶことはありませんよ。録音については、盗み録りだと思っています」
東京新聞の記事では、こうした状況が書かれておらず、「自分たちの都合のよいことしか書いていません。公平・公正を掲げる新聞社の立場としては、いかがなものでしょうか」と疑問を呈した。東京新聞に対しては、記者のしたことに抗議する文書を12月12日に郵送したという。
庁舎内での録音に許可が必要な理由としては、「ほかに来庁者の方がおられますので、迷惑をかけないようにしてもらうということが基本的な考え方です」と説明した。記者の録音についても、「傍聴者がおり、運営の妨げにもなりますので、原則禁止にしています。申請があっても許可するかは、ケース・バイ・ケースです」と言っている。