大韓航空の趙顕娥(チョ・ヒョンア)副社長(当時)が引き起こした航空機の「ナッツ・リターン事件」は、副社長の辞任後もなお、幕引きにはほど遠い。
当初、大韓航空側は趙氏の暴言や暴行を否定した。しかし調査が進むにつれ、乗務員や乗客から証言が続出、あげくの果てに、大韓航空の「もみ消し体質」まで明らかになりつつある。
指示書のケースで「手の甲」刺傷
事件のあらましはこうだ。趙氏が自社便に搭乗した際、客室乗務員が機内サービスのナッツを袋ごと出したことに激怒。マニュアルの確認を求めたが、そこで時間を要したため、趙氏は激高した。ついには滑走路へ向かっていた同機を搭乗口まで戻させ、責任者を下ろしてしまう。その後、「越権行為だ」と非難の的になり、趙氏は副社長職を辞した。
この事件について、趙氏の指示で飛行機を降りた「責任者」、パク・チャンジン大韓航空事務長(41)が口を開いた。パク氏は2014年12月12日、KBS(韓国放送公社)のインタビューに応じ、「ナッツ・リターン事件」について語っている。
インタビューを報じた中央日報(以下、いずれも日本語版)によると、パク氏は「趙顕娥前副社長から暴言のほか暴行まで受け、会社側から偽りの陳述も強要された」と主張している。パク氏は女性乗務員を叱責する趙氏に「許しを請うた」が、趙氏から激しい暴言を浴びせられた上、サービス指示書を入れたケースの角で手の甲を数回刺されて「傷もできた」のだという。
趙氏が搭乗口へ戻るよう伝えたことには、「オーナーの娘であるその方の言葉に背けなかった」。報道後には、大韓航空の職員数人がパク氏のもとへ日参し、「マニュアルを熟知していないため趙副社長が怒ったが、暴言はなく、自分から降りたと(国土交通部の調査と検察の捜査で)話せ」と強要。職員らは、国土交通部(日本の国土交通省に相当)の調査担当者が大韓航空OBであることに触れ、「調査といっても会社側と組んでやる花札賭博」などとゆさぶりをかけてきたという。
乗客には「謝罪をたしかに受けたと話してほしい」
趙氏の機内での振る舞いについては、同じファーストクラスにいた乗客も証言している。趙氏のひとつ前の席に座っていた女性(32)は13日、ソウル西部地検での参考人調査を終えて、報道陣に機内での一部始終を話している。
同じく中央日報によると、女性は乗務員の肩を押す趙氏を目撃。乗務員にファイルを投げつけていたと証言する一方で、趙氏が責任者を叩いたり、罵倒する姿は見なかったとし、趙氏が飲酒していたかも「わからない」としている。
騒動は20分あまり続いたが、離陸後も謝罪の機内放送はなく、女性が乗務員にたずねても「内部的なこと」だとかわされた。ニューヨークから仁川まで「ストレスを受けながらの14時間」に腹を立てた女性は、帰国後にコールセンターへ抗議した。
女性は後日、大韓航空の役員から、「飛行機の模型」と「カレンダー」を謝罪の品として送ると伝えられた。役員は「メディアとインタビューをしても謝罪を確かに受けたと話してほしい」ともいい、女性は「後でイメージが落ちるからと曖昧な謝罪文を発表してもみ消そうとすること自体が間違っている」とコメントした。
なお聯合ニュースによると、趙氏は14日午前、パク氏と女性乗務員の自宅を訪問。大韓航空の弁として、どちらも不在だったため、ドアの隙間から「謝罪メモ」を差し入れたとしている。直接謝罪するため、今後も「(謝罪を)試み続けるだろう」(大韓航空関係者)というが、失った信用は当分帰ってこなさそうだ。