日本の国会は「世襲王国」であることは間違いなく、その状況は当分は変化しそうもない。では、この世襲という制度は、どのようにして日本の政界に定着したのだろうか。そもそも世襲は悪いことなのか。
仮にそうだとすれば、どうすれば改善できるのか。「世襲だらけの政治家マップ」(廣済堂新書)などの著作がある作家で評論家の八幡和郎(やわた・かずお)さんに処方箋を聞いた。
源氏物語の光源氏が日本のリーダーの理想像
―― そもそも、日本の政界にはなぜこうも世襲が多いのでしょうか。一般には「地盤(後援会)」「看板(知名度)」「カバン(政治資金)」の「3バン」が世襲候補にはそろいやすいからだとされますが、他に何か背景はあるのでしょうか。
八幡:大きく4つあると考えています。まず、日本人は世襲が好きです。「親の仕事を継ぐということはいいことだ」という価値観がある。例えば現職の国会議員が急死して、これまでまったく政治と無関係だった息子や娘が東京から地元に帰ってきて出馬を決めると、周辺の反応は「えらい!」となる。政治に限らず、日本社会一般に言えることです。
第2は、リーダーに対して「表面的なもっともらしさ」を重んじる一方で能力を求めない文化があるという点です。
源氏物語の光源氏が日本のリーダーの理想像だという笑い話もあるくらいです。光源氏の職は太政大臣、今で言う内閣総理大臣ですが、仕事ができる人物だったとは全く思えません。いかにも容姿が立派で思いやりがあって、ある意味「かっこいい」。今の世襲リーダーにも通じるものがあります。能力よりも、リーダーには「もっともらしさ」や「みんなが納得する」「何となく好感を持たれる」といった要素が重要視されてきたわけです。
そういった要素を世襲の人は身につけやすい。見よう見まねで、それらしい雰囲気を出せるわけです。例えば安倍晋三首相や小泉純一郎首相は、首相秘書や官房長官といった仕事を通じて「首相はどういう仕事か」を、大まかに知ることはできましたが、難しい環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉を自分で責任を持ってやるといった「実務」経験はきわめて乏しい。