韓国・平昌で行われる2018年冬季五輪で、一部を日本で分散開催する可能性がくすぶり続けている。特にボブスレーやリュージュといったそり競技は施設の建設費がかさむため、長野五輪で使用したコースを活用してはどうかというわけだ。
実はこの話、突然降ってわいたのではない。2年前に当時の長野市長が会見で、長野のそり競技施設を平昌五輪で「有効活用」する案について話していたのだ。
「長野の施設を利用して韓国の負担軽くなれば良い」
長野市のウェブサイトに、2012年2月15日の市長定例会見の内容が掲載されている。当時の市長は鷲澤正一氏。記者から、同年2月9日に平昌からの視察団が市長を表敬訪問した際、1998年の長野五輪の際に建設されたそり競技施設「ボブスレー・リュージュパーク(スパイラル)」を平昌五輪で有効活用できればと話していたことについて、具体的な考えを聞かれた。
鷲澤氏によると、前任の塚田佐氏が市長時代、韓国側に「スパイラル」の活用を呼びかけていたという。県会議員も訪韓した際に、五輪開催において韓国側から協力要請があればできる限り応じるとの話をしてきたと明かした。これら過去の経緯を踏まえて、鷲澤氏も視察団が訪れた際に協力の話をしたと説明。韓国側の事情の問題だと前置きしつつ、
「もしこの施設を使うとなれば、全力をあげて応援することになるが、今のところは何も言えない」
と述べていた。
鷲澤氏が市長を務めたのは2001~13年、3期12年だ。この間に2018年の平昌五輪開催が決まった。塚田市長時代から韓国側に「スパイラル」の活用をアピールしてきただけに、五輪に関する協力へと話が進んでいったようだ。
会見ではさらに、「長野の施設を利用することによって韓国の負担が軽くなれば、それはそれで良いことだと思う」と口にした。一部競技の分散開催を受け入れるような発言だ。しかし「ボブスレーやリュージュの将来のことを考えれば、韓国にも施設を造ってもらい......」とも話している。「ぜひ長野でそり競技の実施を」と前のめりになっているというよりは、力を貸すのはあくまでも韓国側から要望が届いてから、ということらしい。
長野五輪後の使い道に最も困ったそり競技施設
鷲澤氏は2013年11月29日付の「日経ビジネスオンライン」インタビューで、「スパイラル」について、長野五輪後の使い道に最も困った施設だと明かしている。建設や土地代にかかった費用は100億円だが、ボブスレーなどは日本で盛んとはいえず、競技者から利用料を徴収しても大した収入にはならないため、「将来的にも赤字が減るというメドはついていないです」と語った。取り壊そうにも施設には国の補助金が入っている。別のものをつくれば目的外使用になる恐れがあり、手がつけられないようなのだ。
100億円の施設を維持し続けていかねばならないのなら、韓国側から求められた場合に活用してもらえばいい――。「負の遺産」に苦しんだ鷲澤氏だからこそ、こう考えたのかもしれない。
平昌五輪が仮に分散開催となれば、長野県内のスポーツや経済、観光の起爆剤になると期待する「スパイラル」の地元住民の声を、信濃毎日新聞が2014年12月8日に報じていた。とは言え、今のところ「日韓共催」は難しいとの声は多い。韓国側では、遅れてはいるがそり競技施設の工事が進んでおり、建設中止となれば業者に対して賠償責任が発生することになると、韓国主要紙の中央日報日本語電子版が12月10日付記事で指摘している。費用面だけでなく、国民感情としても日韓双方で消極的な声が少なからず聞こえてくる。
12日には、平昌五輪組織委員会の趙亮鎬委員長が、日本との分散開催を否定した。長野でのそり競技実施の可能性は、現時点では薄いと考えられる。それでも、そり競技施設建設は現在12.5%程度にとどまっているそうだ。「協力を惜しまない」と言い続けている長野市が、土壇場で韓国側に泣きつかれたら、どうするだろうか。