世襲だらけの群馬だが、自民党もこのところ現職が引退する選挙区は公募している。しかし、結局現職ファミリーぐらいしか応募はないケースが目立ち、新規参入は難しいのが現実のようだ。
「公募でクリアして、9万3000票を出したんですよ。有権者の審判を受けており、世襲批判というのは、初めての選挙で終わっています」
「それだけ強いということ。ほかの人は控えた」
衆院選・群馬4区から2期目を目指す福田達夫氏(47)の陣営では、地元のPR会社社長でもあるメディア担当者が、取材に対して、こう強調した。
2代続けて首相となった祖父の故・赳夫氏、父親の康夫氏(78)を事実上世襲していることは争点にならず、「今回の選挙では、現職の2年間で何をやってきたかが問われる」というのだ。
ある自民党県議は、取材に対し、有権者の審判も度外視し、「公募で選ばれれば、世襲ではない。たまたま息子だったということだ」と説明する。
しかし、4区の候補者公募のときは、福田氏しか応募はなく、形だけではないのかとの指摘も出た。福田氏が長く康夫氏の国会事務所秘書をやって地元も回っていたことはあるものの、この県議は、「それだけ強いということ。ほかの人は控えたということでしょう」とは認めている。
確かに、前回の衆院選では、公募に複数が応募したケースがあり、群馬2区は5人、3区は8人の応募があった。しかし、2区は、現職ファミリーがおらず、3区は、元自民党総務会長の笹川堯氏(79)の三男である博義氏(48)が選考直前に3区支部から推薦を受けていた。依然、新規参入にハードルは高いようだ。
なぜ群馬は、世襲がこんなに多いのか。
はっきりとした理由は分からないが、様々な憶測は出ている。
地盤、看板、カバンがそろえば、議員は国政に専念しやすいメリットはよく挙げられる。JAなどは、思惑通りに動いてくれる素性の明確な政治家の方が使いやすいとの見方もあり、ある世襲候補の地元男性は、「操り人形を上げておいて、後は後援会がしっかりしていればいいんですよ」と自嘲気味に語った。
小選挙区制になって、世襲の様相も変わる
有権者も、ファミリーに仕えていた親の影響で世襲が当たり前と思うようになるらしい。福田達夫氏を支援している高崎市内のある主婦(57)は、「小さいときから両親が福田家をずっと応援していて、自然と自分も応援するようになっています」と話す。
確かに、取材を続けていても、世襲候補は、「信頼できる」「安心感がある」などと支持は高かった。ただ、地元でも、世襲への批判の声はあった。
世襲候補が街頭演説した富岡市内の上州富岡駅前で取材すると、無職女性(66)は、「自分たちの仲間内がよければいいだけで、年金生活者など下の立場の人たちのことを考えてくれない」と不満を示した。専門学校生の女性(20)は、「トップの人が責任を持たない問題点も見えてきました。今回は、票を入れるのを止めようかなと思います」と漏らしていた。
また、小選挙区制になって、世襲の様相も変わりつつある。
民主党が政権を取った2009年の衆院選では、首相経験のある福田康夫氏が群馬4区で民主候補に苦戦した。1、2、3区は、民主党に議席を奪われてしまった。また、かつて上州戦争を繰り広げた福田、中曽根、小渕の各陣営は、選挙区が分割されるなどして、県内での組織弱体化も指摘されている。いつまでも世襲を続けていると、時代に取り残されてしまう恐れもあるかもしれない。
しかし、各陣営の関係者は、それでも強気の姿勢を崩さない。
小渕優子氏(41)陣営の平田英勝選対幹事長は、「世襲は、悪いのですか? だからと言って、偉ぶったりしませんし。こちらは全然気にしていないですね」と言う。福田達夫氏陣営でも、応援に来ていた国会事務所の秘書が「地元では、世襲を意識している人はいないですよ。『なぜ悪いのか』という人が多いんです。群馬では、カルチャーとして、親の仕事を継ぐのが普通だと聞いていますから」と話した。