自動車、電機などの基幹産業にプラスチックなど幅広い素材を提供してきた石油化学業界に再編風が吹き始めた。経済産業省が11月に産業競争力強化法50条に基づく調査報告を公表し、石油化学業界が供給過剰に陥っていると公式に認めたのがきっかけだ。
業界では、三井化学、丸善石油化学などの5工場が集中する千葉県・京葉コンビナートでの生産集約が当面の課題とみられているが、「石油精製など異業種を含めた本格的な業界再編が必要」とみる経営者も少なくない。
シェールガスで米国の供給力が増加
石油化学業界については、顧客企業である製造業の生産拠点の海外移転が加速した2000年代初頭から、基幹設備であるエチレンプラントの過剰生産能力が指摘されてきた。
エチレンとは、プラスチックや化学繊維、合成ゴムなどあらゆる製品の原料となる基礎原料のこと。大元の原料は原油から抽出するナフサと呼ばれる粗製ガソリンで、日本は中東などから価格の高いナフサを輸入し、エチレンプラントでさまざまな原料を抽出し、顧客先企業などに供給している。エチレンプラントは国内10社合計で14基、年720万トンの生産能力がある。
三菱、住友、三井などの国内化学各社は2008年のリーマン・ショック後の回復局面では、中国などへの輸出で需給の均衡を図ってきた。しかし、その後、世界的な供給構造の変化が加速し、輸出競争力を一気に喪失。国内の過剰設備の解消が待ったなしの状況に陥っているというのが経産省の判断なのだ。
同報告によると、エチレンの設備過剰は2020年で最大170万トンに上る可能性がある。現在の国内生産能力の2割、プラント換算では2~3基分に相当する規模だ。その要因として経産省は以下の構造変化を指摘した。
第一はシェールガスの産出に湧く米国の供給力増加だ。米国では2016年から2020年にかけて、ダウ・ケミカル、エクソン・モービル、シェブロンフィリップスなどの大手メーカーが、シェールガスから化学原料のエタンを抽出する大型プラントの運転を相次ぎ始める予定。北米市場で余剰となった石化製品は中国市場に流入するとみられ、日本企業による輸出は減少する可能性が高い。
中国内でも化学プラント
一方、原油への輸出依存からの脱却を目指す中東産油国も、国策として原油を製品化して販売することに注力しており、原油産出の際の随伴ガスを活用した石油化学プラントへの投資を拡大させている。製品輸出先として有力視されているのはやはり製造業の集積地である中国だ。
第三に、中国でも内陸部の豊富な石炭を原料として、エチレンなどを抽出する化学プラントの建設が始まっていることだ。報告書によると、2018年までに約60基が計画されており、将来的に中国内需に占める国産の割合が上昇するとみられている。
国内の化学企業もこうした状況に危機感を強めており、住友化学が2015年5月に千葉工場のエチレンプラント(生産能力=年38万トン)を停止し、国内でのエチレン生産から撤退することを決定。旭化成は水島工場のプラント(同44万トン)を2016年までに停止し、隣接する三菱化学のプラントの共同運営を始める予定だ。それでも国内の生産能力はまだ640万トンあり、2012年の国内生産610万トンを上回っており、さらなる能力削減は避けられない状況なのだ。
産業競争力強化法に基づく調査報告は、今年6月の石油元売り業界に続き2例目。政府は業界の現状への見解を示すことで、金融機関や株主から再編圧力が高まる効果を狙っている。複数の企業によるプラントの統廃合は、権利関係などの問題が起きやすく、経産省は2015年3月末までに模範的な統合手続きを示す指針を作る方針という。
経産省内では「事業全体に占める石油化学の比率が高く、付加価値のある高機能化学素材へのシフトが遅れている企業はもはや生き残れない。石油精製、石油化学を含め、エネルギー関連の企業が大同団結するくらいの業界再編も選択肢だろう」(幹部)との声も聞こえる。