テレビ東京の女性アナウンサー、大江麻理子さんが以前、中国の取材の際に警察に拘束された経験をツイッターで明かした。
大江アナは、現在も「好きな女性アナウンサー」の上位に選ばれる人気者。バラエティーから報道まで幅広くこなす才媛だが、「中国で拘束された」となれば穏やかでない。何が起きていたのか。
中国の暗部を取材するようには見えなかった?
大江アナが自らの「拘束体験」をツイッターで告白した。これは、テレ東の北京支局特派員を2008~13年務めた小林史憲氏が新著「騒乱、混乱、波乱!ありえない中国」(集英社新書)をツイッターでPRしたのがきっかけとなった。本の「帯」には「拘束21回!」とある。大江アナは本の写真とともに「21回のうち1回は私も一緒でした」とツイートしたのだ。
小林氏の著書に、当時の詳細が書かれている。2011年に特番で中国・重慶を取材した際、大江アナのたっての希望でスラム街を訪れた。音声やカメラなど含め総勢7人の一行は目立ち、徐々に地域住民が集まってくる。取材時間が予定より長引いた結果、制服、私服警官が3人ずつ駆け寄ってきて「お前たち、ここで何をしている?身分証明書を出せ」と詰め寄られた末、全員が公安局(警察署)に連行されたという。
逮捕されたわけではないが、事情聴取は行われた。小林氏は大江アナのことを「日本で非常に有名なアナウンサーです。『明星(スター)』です」と紹介し、「重慶という、驚異的な発展を遂げている都市」を日本で紹介するため、わざわざ訪れたと説明した。大江アナ自身はずっとニコニコしていて、場を和ませたという。その雰囲気から、警官たちには「中国の暗部を探るようなディープな取材をするようには見えなかった」かもしれないと推測する。結局、取り調べは次第に雑談に変わっていき、1時間半ほどで解放されたそうだ。
大江アナは学生時代、北京に語学研修で滞在した経験がある。2014年3月21日付の毎日新聞では、「新人アナウンサーのころに先輩から『自分の目で見たものを、自分の言葉で伝えなさい』と教えられた言葉を忘れない」とのエピソードが紹介された。重慶でのスラム取材も、危険とは知りながらどうしても現場を見たいという「本能」が働いたのかもしれない。
ただ中国政府にとって「見せたくない場所」や、普段外国人が近づかない場所をうろつき、明らかに現地の人とは違う雰囲気を出しながらカメラを構えたりすれば、警官に「職務質問」を受けることはあると、中国取材経験の豊富なフリーライターの高山祐介氏は話す。
下っ端の警官が「やる気なし」というケースも
高山氏も中国での滞在中、かつて何度か似たような「拘束」(尋問)を受けた経験があり、同業者から事情を聞いたこともある。状況はケースバイケースだが、深刻さの加減は警官の表情を読み取ることで判断がつく場合もあるようだ。
「例えば相手がダラダラしていて明らかに緊張感がなかったり、『蒼井そらは日本のどこに住んでいるんだ』などといった取り調べと無関係の好奇心に基づく質問をして来たりする場合は、あからさまに抵抗しない限り長期の拘束や暴力に発展する可能性は比較的低いと考えていいのでは」
コミュニティーの中には、外部からの「侵入者」を監視して怪しげな行動だとみれば警察に通報し、「小遣い」をもらう民間協力者の監視網もあるという。だが、呼ばれてやってくる下っ端の警官が「やる気なし」というケースも少なからずあるそうだ。撮影した写真を消去しろと言われることもあるが、相手の機嫌ややる気次第では「適当に話題をそらしてダラダラ話していると、そのうち相手も仕事が面倒くさくなって尋問をやめてしまうこともあり得ます」。
もっとも、中国の警察は緩いばかりではもちろんない。逆に相当厳しい対応をとられると考えられるのは、当局が「重点的に隠したいことにあえて突っ込む」場合だと高山氏は指摘する。例えば、中国当局の軟禁状態にある著名な人権活動家にインタビューを試みる、あるいは天安門事件の記念日当日に知名度の高い犠牲者遺族に接触する、大規模な官民衝突や少数民族争乱の直後に現地に突撃する、などといった行為だ。
前出の小林氏は著書の中で、21回拘束されたうち報道されたのは1度だけで、中国での拘束は「外国メディアからすれば日常茶飯事」と明かしている。大江アナのケースも深刻さの度合いは弱かったのかもしれない。とは言え「こうすれば大丈夫」という確固たる答えがあるわけではなく、油断は禁物だ。