中東などの産油国12か国でつくる石油輸出国機構(OPEC)が2014年11月27日の定例総会で、生産目標を現行の日量3000万バレルに据え置くことを決めたことを受け、原油価格の下落が加速している。
価格下支えのため減産がなぜ実現しなかったのか。そこには、米国のシェールオイル生産が拡大する中で、価格カルテルとしてのOPECの存在感低下という現実がある。
米シェールオイルにどう対応していくか
OPECは世界の生産量の約4割を占めており、決定から一夜明けた28日の米ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は、米国産標準油種(WTI)の1月渡しの終値が、1バレル=66.15ドルと、2009年9月以来、約5年2か月ぶりの安値をつけた。6月の1バレル=107ドル台から3割以上下落、OPEC総会前の26日終値と比べても実に7ドル超の急落だ。市場では節目の70ドルを割ったことで、60ドル前後まで下落する可能性も取沙汰され始めた。
今回のOPEC総会が注目されたのは、原油価格の下落で財政力の差が目立つ産油国の意見調整の行方だけでなく、米シェールオイルにどう対応していくかというOPECの存在意義が問われるテーマが突きつけられていたからだ。
OPEC加盟国の財政力格差については、ベネズエラが原油価格1バレル=117ドルを下回ると財政赤字になるといい、同様のイランなどとともに減産を強く訴えた。これに対し、財政赤字になる価格水準が70~90ドル台と相対的に低いサウジアラビアなどは財政的にも余裕がある。サウジには、過去に減産を決めた際にベネズエラなどが原油収入を確保するため「ヤミ増産」を繰り返してきたことへの不信感も強いとされる。
一種の「チキンレース」
財政問題以上にサウジをして、頑なに「減産拒否」させたのは、米シェールオイルの存在だ。最近の原油相場の下落は、欧州や中国など新興国の景気減速による需要の伸び悩みもさることながら、米国を中心に、頁岩(シェール)層から石油やガスを取り出す技術開発によるシェールオイルの生産増という「構造要因」があり、その結果、需給が趨勢的に緩んでいるのだ。サウジなどは、OPECが減産して一時的に価格を押し上げても、かえって米シェールオイルの増産を招き、結局シェアを失うだけと考え、減産に首を縦に振らなかったのだ。
これは、一種の「チキンレース」に例えられる。サウジは原油安を放置すれば自国の収入が減るものの、「価格が低くなることでシェールオイル開発への投資をしにくくし、シェアを守りたいという思惑がある」(アナリスト)。実際、OPEC総会後の米株式市場では個人消費の拡大期待から小売株などが上昇した一方、原油安が資源開発事業の足かせになるとの懸念から、石油関連株は軒並み下げた。
米シェールオイル業界も、順調にシェアを伸ばしてOPECの牙城を突き崩したはいいが、OPECの力の低下による価格下落は痛しかゆしということになる。サウジなどにしても、民主化要求運動「アラブの春」の波及を食い止めようと国民の不満を解消するための巨額の財政支出を続ける以上、原油安による収入減少は打撃には違いない。いずれにせよ、息の長い我慢比べが続くことになりそうだ。
「デフレとの戦い」には逆風に
減産見送りと原油価格下落に、日本では歓迎の声が上がる。宮沢洋一経済産業相は11月28日の閣議後会見で「(原油の)価格が上がらないことは我が国にとってありがたい」と話した。
7月に1リットル当たり169.9円まで上がった国内のレギュラーガソリン価格も、11月25日時点では、158.3円まで安くなっているが、原油値下がりで下落が続くとみる専門家は多い。冬の需要期を迎える灯油も安くなりそうだ。火力発電の燃料である液化天然ガス(LNG)の価格も原油価格に連動するので、今後は電気料金が下がる期待もある。みずほ総研の試算では、約20%の原油安は日本の2015年の国内総生産(GDP)を0.5%押し上げる効果があるという。
ただし、OPEC総会後にロシアの通貨ルーブルが急落するなど原油などの相場下落が資源国の経済混乱につながりかねないことは注意が必要だ。
また、原油価格の下落は、日本や欧州の中央銀行が取り組む「デフレ(物価下落)との戦い」には逆風になるという警戒感もある。10月に追加緩和を決めた日銀の黒田東彦総裁は「物価下押し圧力が残存する場合、着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するおそれがある」と述べていた。原油安で、デフレからの脱却が振出しに戻りかねないという指摘も出始めている。
一国の中央銀行総裁が、企業業績の改善や個人消費の活性化につながる原油安を喜べないという不思議な事態になっているわけで、「これこそ、デフレ脱出がいかに大変かを象徴するもの」(エコノミスト)といえそうだ。