最近では11月にもなれば早くも「忘年会」のお呼びがかかり、ビジネスパーソンには良くも悪くも酒量が増えるシーズンが始まった。適量を心掛ければ「酒は百薬の長」というが、いったい適量とはどれくらいなのか。
そもそも酒を飲むと「酔う」のは、血液中に入ったアルコールが循環して脳に到達すると、アルコールが脳の神経細胞に作用してマヒした状態となるからだ。酔いの程度は、血液中のアルコール濃度によって6段階(爽快期・ほろ酔い期・酩酊初期・酩酊期・泥酔期・昏睡期)に分けられる。
厚労省の指針では、1日ビール中びん1本、日本酒1合
公益社団法人アルコール健康医学協会によると、血液中のアルコール濃度0.02~0.04%なら「爽快期」で、さわやかな気分になれる。このときはまだ、皮膚が赤くなったり、陽気になったりする程度だ。0.05~0.10%は「ほろ酔い期」。体温が上がり、脈が速くなったりする。
酔いが進むと次第に、理性をつかさどる大脳皮質の活動は低下していく。0.11~0.15%の「酩酊初期」では、気が大きくなって大声を出し、怒りっぽくなる。さらに、0.41~0.50%は「昏睡期」ともなれば、マヒ状態は脳全体に及び、呼吸困難を引き起こす可能性もあるという。
厚生労働省の指針では、1日のアルコール摂取量の目安を、純アルコール量で約20g程度だとしている。これをアルコール飲料に換算すると、ビールは中びん1本(500ml)、日本酒は1合(180ml)、焼酎0.6合(約110ml)、ウイスキーはダブル1杯(60ml)、ワイン1/4本(約180ml)、缶チューハイ1.5缶(約520ml)となる。なお、純アルコール量は次の計算で求められる。
純アルコール量(g)=酒の量(ml)×アルコール濃度×0.8(アルコールの比重)
また、同協会によると、一般的に、純アルコール量20gを1単位として、2単位までを限度とすることを薦める。つまり、「爽快期」を維持して酒を楽しみ、酒量が増えたとしても「ほろ酔い期」でとどめておくくらいだ。ただし、体格や年齢・性別、体質、飲酒時の体調などの個人差によって異なる。休肝日も必要だ。
適量の酒で「死亡リスク」が低くなる
このように酒の「適量」が定められている背景には、飲酒量と死亡率の相関関係を調べた疫学調査の結果があるからだ。なかでも、米国保健科学協議会が各国の研究機関等の研究報告を分析したレポート(1993年)によって、適量の酒を飲む人は、全く飲まない人や多量に飲む人に比べ、最も死亡率が低いという考え方が広まった。グラフの形が似ていることから「Jカーブ効果」と呼ばれている。
滋賀医科大学の報告(2006年)によると、日本でもアルコール摂取量と総死亡リスクとの間に、Jカーブ減少が見られたという。この研究で、最も総死亡リスクが低かったのは、1日のアルコール摂取量9~12gのグループだった。また、総死亡に対して予防的に作用するアルコール摂取量の上限は、1日あたり42~72gのグループだという結果も出た。これは、アルコールが血中の善玉コレステロールを増やして悪玉コレステロールを抑えたことで、心筋梗塞や狭心症などの予防に役立ったと考えられている。
個人差はあるにしても、適度な酒はコミュニケーションを円滑にしたり、緊張やストレスを和らげたりするのだろう。もっとも、ほどほどの酒は「百薬の長」となり健康長寿につながるが、酒席の言動によっては「諸悪の根源」にもなりかねない。酒席では雰囲気を大切にしながら、ほろ酔い程度に楽しむのがよさそうだ。
[アンチエイジング医師団 取材TEAM/監修:山田秀和 近畿大学医学部 奈良病院皮膚科教授、近畿大学アンチエイジングセンター 副センター長]
アンチエイジング医師団
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