日本を訪れる外国人観光客が増加している。中国人観光客が目立つ一方、東日本大震災で一時減少した韓国からの旅行者数も回復してきた。
日韓の政府間では、島根県・竹島を巡る問題や歴史認識の問題が横たわり、いまだに関係は冷え込んだまま。半面、民間レベルでは円安メリットを利用して日本での観光や買い物を楽しむ韓国人が増えてきたのも事実だ。
9月の訪日韓国人数は過去最高
外国人旅行者向けの免税店が立ち並ぶ東京・秋葉原。電化製品を中心に買い求める人の姿があちこちで見られる。店には英語や中国語、ハングルの表示が並ぶが、買い物意欲が旺盛なのは中国人観光客だ。記者が訪れた11月半ばの週末、大型免税店「LAOX」前には観光バスが横づけされ、店内だけでなく入口付近も多くの客で賑わっていた。
「派手」な中国人観光客にかすみがちだが、実は韓国人観光客の数も上昇傾向にある。日本政府観光局(JNTO)によると、9月の訪日韓国人数は21万7700人で、同月としては過去最高を記録したという。2014年1~9月までの昨年比の伸び率では中国やフィリピン、タイがずっと高いが、それでも総数では韓国が199万5800人と中国を抑えてトップを守っている。
訪日外国人の増加の背景には円安が大きい。また10月1日からは菓子や医薬品、化粧品など免税対象品が拡大し、さらなる「呼び水」になっていると考えられる。韓国人にとっても、円安傾向のため旅行の際のメリットは大きい。ソウル在住の韓国人女性に取材すると、「多くの人にとって円安は、明らかに訪日意欲を高めています」と話す。女性の知人一家も、円安を利用して京都旅行を計画中だという。
JNTO によると9月は韓国のお盆にあたり、今年は振替休日制度の導入で5連休となった人もいたという。この程度の休暇期間なら、距離的に近い日本が格好の海外旅行先となるそうだ。韓国人の場合、中国訪問の際はビザ取得が義務付けられているが、日本は短期間の滞在であればノービザというのも、行先として選ばれやすい。
セウォル号事故後の自粛ムードも「もう大丈夫だろう」
韓国の主要紙、中央日報日本語電子版は11月5日、10月も前月に続いて日本観光が人気を集めていると報じた。旅行会社を利用して日本を訪れた韓国人は前年同月比121.5%増と大きく伸ばしたという。同月の海外旅行需要全体は同18.0%増で、日本人気がいかに高かったかが分かる。
韓国では2014年4月に起きた旅客船セウォル号の沈没事故後、国全体でしばらくの間、娯楽を自粛するムードが続いたという。その影響か、事故翌月にあたる5月の訪日韓国人数は前年同期比でマイナス14.6%と落ち込んでいた。ただ前出の韓国人女性によると、時間と共に社会の雰囲気も変わっていき、現在では「もうレジャーを楽しんでも大丈夫だろう」と考えるようになっていると話した。市民の心境の変化が、日本を含む海外への渡航に影響を与えているのだろう。
2011年3月の東日本大震災と東京電力福島第1原発の事故後、訪日韓国人数は急減し、その年は前年比で3割以上少なくなった。2013年にようやく震災前の水準まで戻ってきたが、一方では日韓首脳会談がいまだに開かれないなど政治レベルでは停滞が続く。
円安や免税品目の拡大を受けて来日し、抱えきれないほどのお土産を手に満面の笑顔で帰っていく中国人観光客を見ると、もしかしたら「政治や歴史問題は、また別の話」と一種の割り切りがあるのかもしれない。韓国人旅行者の場合はどうだろうか。