トヨタ自動車が2014年8月末に国内で再発売した、悪路に強い四輪駆動車「ランドクルーザー70シリーズ」(ランクル70)が、予想を上回る人気となり、大幅な増産体勢をとることになった。
当初の月間販売目標は200台だが、10月末までで5000台以上の受注があったといい、15年1月の生産は月間1700台超と足元の11月の340台の5倍超とする。国内の新車市場は消費増税に伴う駆け込み需要の反動減の影響を抜けきれないが、ランクル70に限っては別世界が広がっているようだ。
今注文しても15年4月以降の納車
「通常より納期が遅れておりますことを、心からお詫び申し上げます。現在、納期短縮へ向け最大限の取組みをしております」。
トヨタのホームページ(11月18日更新)にはこのような文章が掲載され、「ランクル70」の注文に生産が追いついていないことを平謝りしている。増産体勢をとるものの、今注文した場合は15年4月以降の納車となるという。
「ランクル」は「トヨタジープBJシリーズ」をもとに1955年に20シリーズが発売された。耐久性能にさまざまな改良を重ねた70シリーズは1984年の発売。世界的に人気を呼び、国内でも厚い支持を受けた。しかし、国内ではランクル70が搭載するようなディーゼルエンジンに対する排ガス規制の壁が高まっていたこともあって、2004年に販売を終了した。
復活を望む国内ファンの声もあって発売30年にあたる14年8月、15年6月末までの期間限定生産で再発売した。世界的には根強い需要もあり、ランクル70は発売30年で、約180カ国累計131万台を販売したという。
エボラ出血熱への医療支援を後押し
ランドクルーザーシリーズの高い耐久性、悪路への強さは世界各地の過酷な環境でいかんなく発揮される。
例えばオーストラリア北東部の世界最大規模の地下鉱山。深さ1500メートル以上、坑道は全長約560キロに及ぶとされる巨大な地下空間で活躍しているという。地下は湿度が高く蒸し風呂のような状態で、路面はデコボコが激しい悪条件。ハードな環境をこなした上で故障しない強さが求められるなか、ランクルは走り続けて信頼を勝ち取っている。
また、中東のオマーンでは、道とは言えないぬかるむ浜辺で漁船を引っ張り上げたり、獲った魚を運んだりという活躍もしている。氷点下45度に達する南極で日本の観測隊を支えたこともあるという。
オフロードへの強さは幅広く支持されており、中近東やアフリカでは人々の暮らしに欠かせない存在にもなっている。トヨタもそれは承知しており、11月10日には西アフリカ諸国で流行するエボラ出血熱への医療支援を後押しするため、世界保健機関(WHO)にランクル70を17台、寄贈することを発表した。
「限定生産」に消費者が反応している面も
もちろん日本列島の道路事情は悪くないが、山間部などのオフロード走行を楽しみたい、というニーズは中年男性ドライバーを中心に確実にある。手動のギアチェンジで四輪駆動車を走らせることに「クルマ本来の楽しさを見いだす若いお客さんもいる」(トヨタ関係者)といい、ファン層に広がりも見られるようだ。
ただ、ボヤボヤしていると購入機会を失う「限定生産」に消費者が反応している面も否定できない。15年10月の消費再増税は先送りされるが、「もっといいクルマづくり」(豊田章男社長)を深めないと若者のクルマ離れを止めることは難しいとも言えそうだ。