米アップルは、部品の調達や製品の生産工程で強固なサプライチェーンを築いている。世界的なヒット商品「アイフォーン(iPhone)」などの製造に不可欠なパートナー企業は、世界各国に広がる。
ところが、長年アップルを支えていた日本のサプライヤーが反旗を翻して訴えを起こした。供給していた部品の特許をアップルに侵害されたとの主張だ。
半年後に突然発注量を半減、他社に製品をつくらせていたと訴え
「当社は、アップルのサプライヤーとして、約9年間、アップルと継続的取引を行って参りました。しかしながら、これまでの取引において、看過できない行為があったため、訴訟を提起したものであります」
この文面は2014年9月12日、島野製作所が出したものだ。東京都内にある部品メーカーで、社員数20人と規模は大きくないが、アジアに支店や工場を持つ。電源アダプターのコネクタ部分に使われるピン製造では、高い技術力を誇る会社だ。長年のパートナーであり、今や巨大企業となったアップルを、独占禁止法違反と特許権侵害で東京地裁に訴えたのだが、10月24日付「ダイヤモンドオンライン」が訴状の要約として島野の言い分を掲載している。
島野はアップルの発注により新製品用のピンを開発。増産を何度も求められて量産体制をとる。ところがアップルは約半年後に突然、発注量を半減させた。このときアップルは別のサプライヤーにピンを製造させており、しかも島野の特許権を侵害していたというのだ。取引再開の条件として、アップルは値下げを要求。しかも、既にアップルが購入していたピンの代金についても、値下げ分との差額を支払えと求めてきた。
もしもアップルが島野の技術を盗み、その情報を他社に流して製品を安くつくらせていたとすれば不正も甚だしい。「特許権侵害」については、弁理士でITコンサルタントの栗原潔氏が10月26日のブログでこんな分析をしている。
島野の発表資料には書かれていないが、同社が日本で所有する特許権は3件で、「MagSafe」(アップル製品のコネクタ)のピン部分の構造の特許とみられると説明。対してアップルはMagSafeそのものの特許権は持つが、個別のピンの構造には及んでいないと思われるとした。そのうえで栗原氏は、携帯音楽プレーヤー「iPod」の技術が、日本の個人発明家が開発した特許権を侵害しているとして、知財高裁が2014年4月、アップル日本法人に約3億3600万円の支払いを命じる判決を下した点に触れた。「特許の世界」では、中小企業でも十分「勝負」ができるというのだ。