最大のポイントは「監査権」
そもそも中央会は戦後間もない1954年、経営が困難になった農協を指導し、合併を進めるなどのために導入された特別な制度。当時は1万超の農協があったが、今は700を割り、信用(銀行)事業は上部組織の農林中央金庫(農中)が指導する体制もできており、政府は「時代にあった制度に改めるべきだ」と考えているのだ。
そこでの最大のポイントが「監査権」。通常の民間の監査は公認会計士が行うのが一般的だが、農協は全中が会計監査(利益や損失など財務諸表の点検)と業務監査(業務内容の点検)をセットで実施している。農協は預金、融資や保険販売など金融業だけでなく農産物販売なども担うから、「農協の実務に詳しい者の監査が必要」というのが全中の立場だ。
ただ、監査権が残れば、JA全中は地域農協の経営状況を詳細に把握でき、何か問題が見つかれば、改革案で「一律的な経営指導の権限廃止」と言っても、「これまでと変わらない『指導』も可能になりかねない」(農水省)。これまでも、監査と経営指導を通じて、肥料や機材の仕入れや販売など、細かい点にも注文をつけ、農協の自由な運営を損なっているとの批判が根強く、「監査権」の廃止は、政府として譲れないところ。「監査権の維持が自分たちの組織を守る最後のとりで」(農水省筋)と見ているわけだ。
政府はJA側の出方を想定し、9月の内閣改造で農水相には農協改革に熱心な西川公也氏を起用。自民党内でも10月、首相に近い稲田朋美政調会長のもとに「規制改革推進委員会」を発足させ、族議員の発言力が強い農林部会を避けて農協改革を議論する舞台を整えるなど、対JAシフトを敷いた。
JA全中の万歳会長は、政府に対して「我々の思いをきちんと説明しながら、理解を求めていく」と話し、自民党の農林族議員を巻き込んで巻き返す意向を示しており、農林族からも「監査権を残したJA案は現実的な形だ」(幹部)との声が上がる。「総選挙、さらに来春の統一地方選で、農協の集票力がどの程度のパワーを見せるかが、今後の動向を左右する」(霞が関筋)との見方もある。