スマホ事業におけるビジョンが見えない
平井社長は、11月11日付の日本経済新聞電子版のインタビューで、スマホ事業は「今年度中に再生に向けた道筋をつける」と述べた。2015年2月をめどに、再建策を示す方針だという。通信キャリアとの関係強化と並んで、収益構造の改善と商品力の向上を課題に挙げている。
ソニーの個々の優れた技術を結集してスマホの商品としての魅力を高め、「高級路線」を歩む。シェアよりも収益性重視のようだ。ただ「ソニーらしい商品」と平井社長は強調するが、現時点では具体策は見えてこない。青森公立大学経営経済学部准教授の木暮祐一氏は取材に対し、高級路線への転進は、海外市場で中華スマホに圧倒され、低価格帯市場から撤退せざるを得なかったうえでの「言い訳にしか今のところは聞こえません」と断じた。
最大の問題は、ソニーのスマホ事業におけるビジョンが見えない点だと話す。例えばソニーが持つ家電の製品群とスマホが連携して効果を発揮するというようなコンセプトが、明白に打ち出されていないとの指摘だ。高級路線を狙うならアップルやサムスンとの競争は避けられないが、独自の世界観があると木暮氏が評価するiPhoneなどに対して、それこそ「ソニーらしさ」を消費者に分かりやすく明示できていない現状では、今後苦しい戦いが予想されよう。
現状を打開するひとつヒントとなり得そうなのが、ウェアラブル端末かもしれない。東京都内に勤務する40代男性に取材すると、他社製のスマホからエクスペリアに機種変更した際、決め手となったのはソニーが先行して発売していた腕時計型端末だった。職場ではスマホの着信音をオフにし、また頻繁に離席してスマホを自席に残しておく時間が長く、以前は電話やメールの受信に気づかないことが多かった。腕時計型端末は常に身に着けているうえスマホと連動しているので、電話やメールを逃すことがなくなったとその利便性を語った。
平井社長も、各種メディアのインタビューでウェアラブル端末への期待を語っている。ただし今のところ、腕時計型端末の市場が急拡大しているとは言えない。加えて、既にサムスンは同種の端末を発売したうえアップルも参戦を表明した。木暮氏は、ウェアラブルとの連携についても「ソニーがスマホで何を目指し、どんなシナジーを生み出せるかを示せないと厳しいでしょう」と警鐘を鳴らす。