政府が成長戦略の1つと位置づけた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の新たな運用方針が2014年10月31日に発表された。約130兆円に上る積立金などの資産のうち、株式の割合を従来の24%から50%に倍増させるのが柱だ。
株式市場は春からこの動きを折り込んで相場を下支えしてきたため、結果的にGPIFが「高値づかみ」する懸念もある。
「中期計画」を前倒しで実施
GPIFが発表した新たな運用の目安は、国内債券35%(従来は60%)▽国内株式25%(同12%)▽海外債券15%(同11%)▽海外株式25%(同12%)。実際の運用構成が目安からずれることもあり、その許容幅は国内債券で上下10%(従来は上下8%)、国内株式で上下9%(同6%)、海外株式で上下8%(同5%)に広げた。国内株式は最大で全運用額の34%まで持つことができるようになる。
株式の割合を大幅に増やしたのは、将来の年金支払いに備えて積立金をより高い利回りで運用するためだ。GPIFは今の年金制度を維持するのに必要な利回りは年1.7%と説明しており、三谷隆博理事長は記者会見で「仮に全額を国債で運用した場合、市場金利が1%上昇すれば(債券価格が下落し)10兆円の評価損が出る」と指摘。「国債は安全で株式は危ないという考えがあるが、そうではない」と強調した。塩崎泰久厚生労働相も報道陣に「安全かつ効率的な運用は鉄則だ。結果的に経済成長につながることがありうる」と安定運用と収益向上の二兎を追う考えを強調した。
塩崎氏は野党から「政府の消費再増税の判断を前にした株価対策だ」という批判が出ていることにも反論したが、説得力は乏しい。新たな運用方針は本来、来年4月から始まるGPIFの中期計画の柱になる予定だったが、田村憲久前厚生労働相が前倒しを指示。塩崎氏自身も自民党政調幹部として、政府が6月に策定した成長戦略に盛り込ませた経緯がある。
90年代にも「PKO」
実際、公的年金を使った株価対策は1990年代にも実施され、国連の平和維持活動を文字って政府の株価維持策(PKO=Price Keeping Operation)と皮肉られた過去がある。公的年金による株買い付けが一巡すると株価は下落に転じ、効果は長続きしないというのが当時の経験則。巨額の資金でも、マクロの経済環境や企業の成長性判断に基づく市場全体のセンチメントは変えることはできないためだ。
公的年金の積立金を、リスクの度合いが異なる対象にどう配分するかは、GPIFの最重要決定事項だ。株式の場合、国の財政が破綻して債務不履行(デフォルト)にならない限り元本が棄損することはない国債と違い、「予期できない事態で相当な損失を抱え込むことになりかねない」(藤戸則弘・三菱UFJモルガンスタンレー証券投資情報部長)という指摘は専門家にも多い。運用のプロが政治の介入を受けることなく、年金の将来のためだけを考え、判断することへの国民の信頼が前提になるのだ。
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏(経済評論家)が楽天証券のホームページでGPIFの株式運用の問題点を指摘している。山崎氏は「GPIFが薬品会社の株を保有することを考えてみてほしい。新薬などを認可することも、GPIFの運用を認可するのも厚労相の権限なので、いわゆる『利益相反』が起きる」と話す。
GPIFは11月4日、組織改革を議論する作業班の初会合を開いた。塩崎氏の強い意向を受け、政治からの独立性を確保することやリスク管理を強化することが焦点だ。だが、次期次官候補の呼び声も高い香取照幸年金局長ら同省幹部は監督権限があいまいになることを理由に強硬に反対しているとされ、改革が尻すぼみに終わる不安も指摘されている。