東京電力福島第一原発の吉田昌郎元所長=13年7月死去=へのヒヤリング結果をまとめた「吉田調書」をめぐる朝日新聞の誤報について、同社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)が2014年11月12日、誤報に至るまでの経緯をまとめた「見解」を発表した。
この誤報をめぐっては、紙面が印刷される直前まで社内のあらゆる部門、ひいては記事を出稿した特別報道部の部員からも記事内容に対する疑問や修正案が示されていたにもかかわらず、軌道修正されることなく掲載されてしまったことが明らかになった。情報源の秘匿を重視するあまり、「吉田調書」そのものを読んだ人がほとんどおらず、取材チームの3人の独走を許したことで、誤報を防ぐことができなかった。
記事取り消しの判断は「妥当」と評価
朝日新聞は、5月20日に1面トップで「所長命令に違反 原発撤退」と題して吉田調書に関する記事を掲載した。だが、後に他社も吉田調書を入手し、
「『伝言ゲーム』による指示で現場に混乱があったことを認めているだけで、部下が命令に違反したとの認識は持っていない」(読売新聞)
などと記事が事実と異なるという指摘が相次いだ。9月11日になって朝日新聞は木村伊量(ただかず)社長が会見を開き、誤報を認めて記事の取り消しを表明。PRCに審査を申し立てていた。
PRCの見解では、非公開だった吉田調書を入手して報じたこと自体は「大きな意義を持つスクープ記事だった」と高く評価したものの、「『所長命令に違反』したと評価できるような事実は存在しない。裏付け取材もなされていない」として、後に記事を取り消した朝日新聞の対応は妥当だったと結論付けた。
PRCでは、見解をまとめるにあたって吉田調書や東電の内部資料など約60点を精査。記事を担当した取材記者や特別報道部の部長ら延べ26人に対して聞き取り調査を行い、37人から報告書の提出を受けた。