男子フィギュアスケートの羽生結弦がグランプリシリーズ中国大会で頭部負傷しながら競技を行ったことで大騒ぎになった。
精密検査の結果は全治2~3週間。このアクシデントによる問題とは...。
「涙が出て止まらなかった」大騒ぎした日本メディア
事故が起きたのは上海での競技(2014年11月8日)。競技前の練習で起きた。羽生は中国選手と正面衝突し、氷上に倒れた。しばらく起き上がることはできなかった。頭部などから血を流す状況となった。
「今はヒーローになる必要はない」
脳震とうを起こしていた可能性があるとみて、コーチは羽生に対し、競技中止を求めた。しかし、羽生は応じなかった。
「出る」
治療をして会場に姿を見せた羽生は、頭にテーピング、アゴに止血のばんそうこうという痛々しいものだった。
競技は無残だった。ジャンプで5度も転んだ。それでも2位に入った。スタンドからは大きな拍手と花束などが投げ込まれた。本来なら世界ナンバーワンの競技を称えてのプレゼントが同情のそれになったようだった。
あれだけ転倒しても高得点だったのは、4回転ジャンプをしっかり行っていたからだという。満を持しての「オペラ座の怪人」は予想外の演技となった。
大騒ぎしたのは日本のメディア。
「強い意志を示した」「涙が出て止まらなかった」
集中力を高めて自分の世界に入る時間
聞くところによると、競技前の練習で選手同士が接触するのは、ときおりあるのだという。競技に差し支えないところから問題にならなかったらしい。ただ羽生のようなケースは本当に稀(まれ)なのである。
「あの練習は、選手は集中力を高めて自分の世界に入る時間。だから他の選手が見えなくなる」
経験者の言葉である。あの広い場所で数人の選手しか滑っていないのに、なぜ他の選手の動きが分からないのかと思ったが、そのような時間帯であることなら理解できる。
羽生は帰国して検査を受け、2か所を縫った。心配された脳の影響はないと診断された。不幸中の幸いである。
もし、脳震とうを起こした状態で競技をした場合、恐ろしいのは将来に影響が出る危険性があるという。羽生は会場で医師の診断を受けてから競技に踏み切ったとされている。
勝負に臨む選手は練習も試合のうちと考えなければならない。つまり試合前に負傷しては元も子もなくなるからだ。おそらく羽生は、自分の不注意、と思っていることだろう。それを指摘する関係者はほとんどいなかった。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)