会社説明会や面接で、就職活動中の大学生が身にまとう「リクルートスーツ」。多くの就活生がこの服装なのだが、そんな「定番」のリクルートスーツに対し「気持ち悪い」との声がある。
ひと昔前にリクルートスーツといえば、その色は濃紺やグレーだったが、東洋経済オンラインによると2003年ごろから「黒」が主流で、現在は約9割が「黒」を着用するという。
就活に「個性」はいらない?
東洋経済オンラインは2014年10月28日付で、「リクルートスーツは、『黒系』を選べ! 服装で目立とうとしてはいけない」と指摘している。「黒」が主流となってきた経緯について、「明確な理由があったわけではない」としているが、アパレル関係者の証言として、黒のメリットは冠婚葬祭にも使えて、紺やグレーよりも引き締まって見えるということらしい。
もちろん、スーツの色が濃紺やグレーだったからといって、そのことを問題視するような企業はないようだが、同誌はストライプの入ったスーツも、「常識を知らない」「派手」といったマイナスの印象を与える可能性があり、「やめたほうがよい」と説いている。つまり、リクルートスーツは黒や濃紺、濃いグレーの中から選べば「無難」と、アドバイスしているわけだ。
就活生は「内定を獲得する」のが目的であって、気に入ったスーツを着てオシャレを楽しむことではないはず。どのような服装で会社説明会や面接に臨めば、「内定をとれるのか」を考えたとき、「黒」のスーツならば「リスクはゼロ」とのアドバイスは理に適っているといえる。
ところが、この記事に脳科学者の茂木健一郎氏や、劇作家で演出家の鴻上尚史氏がツイッターで噛みついた。
「就活生が『制服』を着る国。くだらねえ、意味のない記事だと、敢えて言いたい」
と、茂木氏がコメントすれば、鴻上氏も、
「実に同感。この国の息苦しさを後押ししてどうする 」
などと、つぶやいた。
そもそも両氏は従来から「金太郎飴」のような画一的、均質的な学校教育や社会のあり方に批判的だ。インターネットでは、「横並び、気持ち悪い」「こんなんじゃイノベーション起らない」といった批判もみられる。
学生は「失敗したら...」という思いが強い
茂木健一郎氏や鴻上尚史氏の言いたいことも、わからないではない。たしかに、画一的なリクルートスーツで身を包んだ数百人もの学生が、会社説明会や面接、さらには入社式で並んだ姿を想像すると、どこか怪しく、不思議に感じるという人は少なくないだろう。
とはいえ、実際に就活生に「会社の面接に、どんな服装で行ったらよいか」と聞かれたら、大学や親のみならず、多くの人が「紺や黒のスーツ」を着て行くよう勧めるに違いない。
フリーライターの赤木智弘氏は2014年11月8日付のBLOGOS「画一的なリクルートスーツをくだらなく思っているのは誰か」の記事で、「仮に僕が就活生から着ていくものの相談を受けたとしたら、どう答えるか。それはもちろん『黒か紺系のスーツを着ていけ』である」と書いている。
最近は「私服でお越しください」「普段着でどうぞ」といった企業も増えてきたが、就活に詳しい石渡嶺司氏は、「ほとんどの学生がリクルートスーツですね。理由はやはり無難だから。私服で行って、『もし場違いだったらどうしよう』とか、『マイナスの評価を受けるのでは』などと考えるのであれば、スーツで行こうというわけです」と話す。
20~30年前は、学生服やブレザーにスラックス姿で会社説明会や面接を受ける就活生がいたし、企業もそれを容認していた。ただ、「いまの企業がそれをまったく許さないというのではなく、学生側が『失敗したら、怖い』という思いが強いから、無難なほうを選ぶんです」と、石渡氏は説明する。