日中首脳会談がようやく実現し、両国は対話路線へと一歩を踏み出した。この動きを複雑な思いで見つめているのが韓国だろう。
朴槿恵大統領は、いまだに安倍晋三首相と1対1でのトップ会談を開こうとしない。日中が関係改善の方向へと進み始めたが、韓国マスコミは朴政権の「行き詰まり感」を、焦りを持って伝えた。
日本は韓国に対して首脳会談の熱意が冷めてしまったよう
中国・北京で行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)には、ホスト国・中国の習近平国家主席はもちろん、安倍首相や朴大統領らが顔をそろえた。安倍首相と習主席は2014年11月10日、約2年ぶりに日中首脳会談を行った。一方、日韓首脳会談の開催は今のところ聞こえてこない。
中国と韓国は安倍政権に対して、「正しい歴史認識」の要求を軸に共闘してきた。1909年に伊藤博文を暗殺した安重根の記念館を中国・ハルビンに開館するよう朴大統領が習主席に要請し、2014年1月にこれが実現。従軍慰安婦問題や安倍首相の靖国神社参拝についても、共に日本批判を続けてきた。中韓首脳会談は1年間で5回も開かれ、「蜜月ぶり」は明らかだった。
ところが、ここに来て中国が日本との関係改善を目指し、首脳会談を開いた。朴大統領は、米オバマ大統領を交えての日米韓首脳会談を2014年3月に行ったものの、安倍首相との単独会談にはいまだに応じていない。対日強硬路線を貫いてきた2国のうち中国が「降りた」格好だが、それでも韓国はこのまま「歴史問題」における要求が通るまで、態度を軟化させないつもりだろうか。
韓国の主要紙、朝鮮日報日本語電子版は11月10日、社説で「姿の見えない韓国外交」と指摘した。日中が「互いに競争し協力する新たな段階に一歩前進」した半面、日本は韓国に対して首脳会談開催の熱意が冷めてしまったようだとみる。これは韓国政府が、「中国は安倍首相とのトップ会談の要請に簡単には応じないだろう」と都合よく解釈してきたためだと手厳しい。
慰安婦問題は「先に日本が真の反省と謝罪を行うべき」という点に国民は異議を唱えないとしつつも、これをどう実現するかが問題で、現状では「前後が完全に行き詰まり打つ手を失った状態といっても過言ではない」と結論付けた。歴史認識の主張は続けていくべきだが、かと言って日本にそっぽを向き続ける朴政権の対日政策は機能不全と言いたいようだ。
「中国と日本の接近で韓国だけ疎外される可能性を懸念」
中央日報日本語電子版は11月9日付の社説で、韓国政府について「中国と日本の接近で韓国だけ疎外される可能性を懸念し苦心を繰り返すほかない立場になった」と論じた。日中という「強大国」に挟まれた韓国は、外交に柔軟性を持たなければならない。安倍首相と習主席が握手を交わした今、韓国政府は日韓首脳会談が実現する環境づくりとタイミングに全力を傾けなければならないと強調する。歴史問題で日本の努力が先だという「原則論」は曲げていないが、朴大統領は早期の安倍首相との会談に乗り出すべきだという主張だ。
それでも韓国政府は、首脳会談開催は急がない。日中関係とは別の次元で、「われわれの方針通り毅然と対処したい」(中央日報・11月9日)そうだ。対照的に中韓関係は、11月10日に6回目となる朴・習会談で自由貿易協定(FTA)が実質的に妥結したと発表するなど、日本への対抗とも取れる動きを止める気配はない。
実は1年前にも、朝鮮日報など韓国主要紙は朴大統領に日本との対話再開を促していた。「歴史は歴史、外交は外交ではないか」というわけだ。ところが朴大統領は2013年11月4日の英BBCのインタビューで、慰安婦問題が解決していない状況では会談などしないほうがましだと明言していた。1年が経過した現在、朴大統領の言葉通りの状態となってはいるが、それは日韓関係が政府レベルで改善に向かって進展していないという意味でもあろう。
旅客船セウォル号の沈没事故の対応で国民から厳しい批判を浴びた朴大統領は、対日政策で「妥協した」「弱腰外交だ」と見られる動きは取りづらいのかもしれない。しかし日中関係の時計の針が進み始めただけに、いつまで頑固な姿勢をとり続けられるか。