ストリーミング市場が成長してもCDの落ち込みを補えない?
「無料」についてはもうひとつ、議論がある。日本上陸を阻んでいる原因との見方だ。2014年8月8日付の朝日新聞は、無料配信が日本の音楽業界の反発を引き起こしているとし、レコード会社担当者の「ストリーミング市場が成長しても、CDの落ち込み分を補えず、業界全体でマイナスになる恐れがある」とのコメントを引用した。
日本の音楽市場は、今もCDが中心だ。日本レコード協会によると、2013年のCDアルバム生産数量は邦楽と洋楽合わせて1億2813万7000枚。だが10年前の2004年と比べると4割ほど減少している計算だ。大ヒットアルバムも減っている。100万枚以上売れた「ミリオンセラー」は、2013年は1作品のみ。2004年は13作品あり、200万枚や300万枚を売り上げたアルバムがあったことを考えると、CD販売の存在感が薄れてきているのは明らかだろう。
国内の有料音楽配信も伸び悩む。2013年の売り上げ実績は、シングルやアルバム、音楽ビデオ合わせて金額ベースで前年比77%と落ち込んだ。しかも2010年以降は「右肩下がり」となっている。要するに、音楽市場全体が縮小傾向なのだ。ただでさえCD販売と有料配信が苦戦しているところに、「定額聞き放題、無料でも楽しめる」を旗印としたSpotifyが日本にやってきたら――。国内の音楽業界が警戒するのも分からなくはない。
Spotifyは、レーベルとの正式契約に基づく楽曲配信で海賊版の駆逐に貢献し、再生回数に応じてレーベルに還元しているとアピールする。米国の音楽市場では、「定額配信・ストリーミング」の全体に占める割合が、2003年のゼロから2013年には21%まで成長したと11月4日付のWSJは伝えている。
一方で市場規模は150億ドルから70億ドルと、10年ほどで半減した。CD販売の割合が、10年間で95%から35%と激減したのが目立つ。前出の日本のレコード会社担当者が口にしていた、「ストリーミングが成長してもCDの落ち込み分を補えない」という懸念が、米国では既に現実になっているとも考えられる。
日本でも、ソニーやNTTドコモが既に有料音楽配信サービスを提供している。だが無料モデルを持つSpotifyが本格参戦となれば、無料配信の利用が一気に加速するかもしれず、そうなれば国内音楽業界への強烈パンチとなる。