不動産業界で、借り主の仲介手数料「無料」をうたっている不動産業者が増えている。
なかでも、店舗を持たず、新聞の折込チラシなどで物件を紹介する必要もない「ネット不動産」は、貸主と借り主を効率よくマッチングさせることで仲介手数料の無料化を実現しているようだ。
ネット検索上位狙い、広告費膨らむ
不動産管理会社や元付け会社の物件情報だけに限定した賃貸情報ポータルサイト「ヘヤジン」を運営するイタンジは、自身が宅地建物取引業免許を取得して不動産仲介業に参入。2014年11月3日から、取り扱う全物件の仲介手数料が「無料」となる会員制ネット専業無店舗型不動産仲介サービス「ヘヤジンプライム」の提供を開始した。
これまで賃貸物件を探す人(借り主)は、「釣り物件」の情報によって来店を誘導されたり、来店しないと詳しい物件情報が開示されなかったり、さらに契約に漕ぎつけても敷金・礼金に加えて1か月分の家賃相当の仲介手数料が必要だったりした。
一方、貸主や不動産業者にも、営業マンの人件費とそのスキルへの依存や、物件情報にかかる広告費や仲介業務委託料の負担が圧しかかっていた。
そこで同社は、情報を提供してくれる不動産管理会社の負担の少ない「成功報酬型」のビジネスモデルを導入した。また物件情報を探す借り主のITリテラシーにあわせたネット接客や、現地での内見をネット予約できる「セルフ内見」などのサービスを実施。営業マンによる物件の紹介や見学の同行、契約などの業務を、それぞれ専門スタッフを設けた分業体制化と、インターネットでの無店舗営業などで仲介業務のコストを5分の1に圧縮した。それにより、借り主の仲介手数料を無料化を実現した。
「ヘヤジンプライム」のような、仲介手数料の無料化は「ネット不動産」の増加とともに増える傾向にある。
一般に、不動産業者は貸主と借り主の両方から仲介手数料を得ている。しかし最近は、仲介手数料が「不明瞭」「高すぎる」といった批判が少なくなく、そのため不動産業者は人件費や業務コストを抑えて、借り主からの仲介手数料を下げたり無料にしたりしている。
半面、貸主や不動産管理会社に対してはインターネット検索で物件を上位に表示するために広告費を追加請求するなどの負担が増しているとされる。こうした広告費は、必ずしも貸主負担とはいえないグレーゾーンにあたり、「不動産業ならでは商慣習が、コスト削減の足を引っ張っている場合がある」。同社はIT化で「不動産業界に革新をもたらしていく」としている。
東京23区内なら、仲介手数料「無料」
ネット専業の無店舗型不動産仲介サービス「ヘヤジンプライム」と、既存の仲介手数料の無料サービスとの違いは、貸主や不動産管理会社に成功報酬型のビジネスモデルを提供することで、公開情報を増やして不動産管理会社が取り扱う仲介手数料無料の物件情報を、すべて取り扱うことができるようにした点にある。
つまり、情報量の豊富さが「ヘヤジンプライム」の特色。仲介手数料の「無料」物件を、東京23区全域を対象に約6万~8万件を抱えている。借り手が月額700円の会費を払えば、「非公開」を含めたすべての物件情報が閲覧できる。
運営会社のイタンジによると、「仲介手数料の無料物件は最近増えているが、不動産管理会社が市場全体の30~40%程度に、情報公開を制限してきました。仲介業務に参入したことで、非公開だった情報も公開して、ワンストップで契約できるようにしています」という。
最近はインターネットで物件を探す人が少なくなく、不動産情報サイトはその情報量を競っているが、物件情報が重複するケースも多い。同社は「物件の重複がなく、探しやすい」ともいう。今後は対応する地域を順次広げていく考えだ。