冷え込んだままの日韓関係を好転させるうえで、障害の一つが竹島(島根県)を巡る問題だ。2012年8月、韓国の李明博大統領(当時)が竹島に上陸してから、こじれたままとなっている。
領有権を主張する韓国の姿勢は変わらないが、ここに来て変化の兆しともとれる出来事があった。韓国政府が、予定していた竹島での施設建設を急きょ中止したのだ。
建設業者選定の直前で「異例」の決断
韓国・ソウル新聞電子版や朝鮮日報日本語電子版は2014年11月5日、韓国政府が、竹島の訪問者向けの避難施設建設に関する入札を取りやめたと報じた。島の実効支配を強める事業として国が計画を進め、約3億円の予算で建設業者の選定に入る直前での中止決定だ。
背景には、「日本との外交摩擦を避けるべき」との韓国政府の判断があったのではないかと韓国メディアはみている。ソウル新聞は、韓国・尹炳世外相が「安倍政権を刺激しかねない」と建設に懸念を示したと伝えた。公式には「環境や景観など、さらなる検討が必要になったため」と中止の理由を説明しているが、竹島問題ではこれまで強気一辺倒の態度だったことを考えると、今回の判断は異例と言えそうだ。
実際に10日ほど前の10月25日には、韓国外交部が、島の領有権を海外にアピールするための多言語による宣伝動画をウェブサイト上に公開している。新たにフランス語やアラビア語、ロシア語など7言語が追加され、もともと配信していた英語版などと合わせて計12か国語となった。
日本語版の4分超の動画を見ると、少々扇情的なナレーションで日本が歴史的に竹島を「不法に」編入したと訴え、過去の文献を持ち出して韓国領であることの「正当性」を主張。終盤には「独島(竹島の韓国側の呼称)が自国領であると言い張る日本の主張は、韓半島(朝鮮半島)侵奪の歴史を繰り返すと言っているのと同然です」と断言している。
日本政府も、外務省がウェブサイト上で竹島が日本固有の領土であると説明し、複数の言語でPR動画を配信している。韓国外交部はこれに対抗するため、次々にコンテンツの拡充を図っているようだ。
50人が居住も純粋な住民は1組の夫婦だけ
韓国外交部によると、2013年9月現在で竹島には現在50人が居住しているが、警備隊員や施設・事務所職員を除く純粋な住民は1組の夫婦だけ。だが、険しく切り立つ島に灯台や船の接岸施設はもとより、衛星アンテナも整備され、2011年には宿泊施設が増築された。観光客の受け入れ態勢の充実を図り、2013年には約26万人が島を訪れた。
着々と実効支配を進め、外向けにも「韓国領」とのアピールを怠らず、日本に一歩も譲る気配はない。それだけに、今回の建設中止の決定は今までの「強硬策」が後退するかのような印象を与える。日韓国交正常化50周年を迎える2015年に向けての判断ではないかとの憶測もあるが、韓国政府は今のところ言及していない。
長引く両国の「冷え込み」だが、2014年8月と9月に2か月連続で日韓外相会談が行われ、対話の機会がようやく増えてきたと思われた。ところが産経新聞元ソウル支局長が書いたコラムが朴槿恵大統領の名誉を傷つけたとして韓国検察に10月に起訴され、外交上の問題に発展。なかなか大きな前進が見えない。
今回の竹島を巡る韓国政府の判断が、日本への配慮かどうかは不明だが、あまり譲歩しすぎると今度は朴大統領が自国民から「弱腰だ」との非難が高まって、政権への大打撃となりかねない。難しいかじ取りは、今後も続きそうだ。