脳腫瘍のため余命半年と診断され、「安楽死する」と公表していた29歳のアメリカ人女性、ブリタニー・メイナードさんが、2014年11月1日に医師から処方された薬を飲んで亡くなった。
彼女の死を受けて、アメリカではその是非が議論となっている。その波紋は日本でも広がり、安楽死とともに「尊厳死」の議論が進んでいる。
日本に安楽死を認める法律はない
メイナードさんは今年4月、余命半年の宣告を受け、激しい頭痛から逃れるために安楽死をすると自らのフェイスブックで明らかにした。その後、安楽死が認められているオレゴン州に夫とともに移住し、動画サイトに11月1日の安楽死を予告し、実行した。
ロサンゼルスタイムスによると、ギャラップ社の世論調査では約70%の人が痛みのない形での安楽死を認めているという。しかし、自殺を認めないカトリックなど宗教上の理由から議論は必ずしもはかばかしく進んでこなかった。「痛みや苦しみを理由に許可すべき」という意見がある一方、「自殺を助長する」と安楽死を認めない意見も依然として少なくない。実際、アメリカで安楽死が認められているのはオレゴン州など5つの州にとどまるっている。
日本でもワイドショーや情報番組でさっそく安楽死の是非が取り上げられ、ネット上にも賛成、反対のさまざまな意見が書き込まれた。しかし、哲学、倫理学が専門の森岡正博・大阪府立大教授が
「安楽死賛成か反対かという特集をやってるけど、こういう一般論の二分法問いかけには大きな問題がある」
とツイートしているように、多くの人にとって、どちらか立場をはっきりさせるのは難しいようだ。
そもそも国内に安楽死を認める法律は存在しない。1991年に末期のがん患者に塩化カリウムを投与した医師が殺人罪で起訴され、執行猶予付きの有罪判決が下された事件が起きた。その時、横浜地裁は安楽死が許容される要件として、(1)患者に耐えがたい肉体的苦痛があること、(2)死が避けられず、死期が迫っていること、(3)肉体的苦痛を避ける代替手段がないこと、(4)患者の明確な意思表示があることを挙げた。
安楽死と尊厳死の違い
また、患者の意思を尊重して延命治療を中止する「尊厳死」と、メイナードさんが選んだ「安楽死」は別物だ。
日本尊厳死協会は尊厳死を「不治かつ末期の病態になったとき、自分の意思で延命措置を中止し、人間としての尊厳を保ちながら迎える死」と定義している。11月4日、ホームページ上に「尊厳死は自然死と同義語で、協会の立場からメイナードさんのケースは明らかに尊厳死ではない」と声明を発表。「わが国の終末期医療の議論が進むことを願っている」とした。
今年の通常国会では超党派の議員連盟から「尊厳死法案」成立に向けて、法案提出の動きがあったが、結局見送られた。NPO法人社会保障研究所の石川和男代表は「不治の病苦から逃れることを止めるのは残酷極まりない。国会は、尊厳死法制を早期に表で議論すべき」とツイッターに投稿している。