北海道猿払村で2013年11月、戦時中に労働力として動員された朝鮮半島出身者の追悼碑が建立されたが、村の申し入れで除幕式が中止になる騒ぎがあった。米ニューヨーク・タイムズ紙は、これをネット右翼の圧力でそうなったと批判的に報じて、物議を醸している。
「戦争犯罪を忘れさせようと、日本で圧力がかかった」
ニューヨーク・タイムズ紙の2014年10月28日付サイト記事では、こんなセンセーショナルな見出しが躍っている。記事は、アジア版の1面にも掲載された。
記事の中で追悼碑が無許可だったことに触れず
圧力がかかったとされた追悼碑の建立は、猿払村の共同墓地で進められていた。もともとは、地元の男性が朝鮮出身者を慰霊しようと発案したものだ。
村では、旧陸軍が対ソ戦に備えて1942~44年に浅茅野飛行場を建設し、日本人も含めて多くの朝鮮出身者が過酷な環境で働いていたとされる。そんな中で、80人以上が栄養失調やチフスなどで亡くなったと伝えられ、飛行場近くの旧共同墓地などに埋葬されたという。
そのことを知った地元男性の呼びかけで、市民団体「強制連行・強制労働犠牲者を考える北海道フォーラム」などが06~10年まで発掘調査を行い、39人の遺骨を見つけて近くの寺に安置した。その後、韓国政府機関「対日抗争期強制動員調査・支援委員会」も加わって追悼碑の建立が進められ、13年11月26日に除幕式が行われる予定になった。
このことが韓国でも報じられると、日本のネット上で騒ぎになり、村には、「強制連行というが、根拠はあるのか」といった抗議が相次いだ。そんな中で、村有地の追悼碑建立に村への許可申請がなかったことが分かり、村は除幕式の中止を求めていた。12月8日には、追悼碑が自主的に撤去され、村の総務課によると、その後は改めて申請はないという。
しかし、ニューヨーク・タイムズ紙は、記事の中で追悼碑が無許可だったことに触れず、ネット右翼の抗議が相次いで村が建立中止を命じたと書いている。
猿払村「記事は違う部分があると思います」
記事では、その抗議について、「村の住民たちは国賊だ」「特産のホタテガイの不買運動をするぞ」といったものだったと指摘している。
ニューヨーク・タイムズ紙の報道について、猿払村の総務課では、「ニュアンスについては、違う部分があると思います」と戸惑いがちに取材に答えた。「抗議の電話やメールが多数あったのは事実ですが、圧力があったので除幕式の中止を申し入れたわけではありません。あくまでも、手続き上の不備があったということです」と説明した。
一方、追悼碑建立などを進めてきた「強制連行・強制労働犠牲者を考える北海道フォーラム」の共同代表は、取材に対し、村が話し合いの中でネット右翼の圧力に何か言及したかについてはコメントしなかった。しかし、村が手続き上の不備だけを挙げたことについては、「それが役場の見解でしょう」と含みを持たせた。
別の場所に建てるかなど、今後については、「まだ何も決めていません」と取材に答えた。ただ、「抗議などは気にしないで追悼碑を建てるべきだ、という立場に立っています。近く何らかの主体的なアクションをする可能性はあります」と言っている。
記事を書いたのは、ニューヨーク・タイムズ紙の東京支局長だった。そこで、支局に話を聞こうとすると、支局長は取材で外出しているとのことだった。