美人と言われる顔の条件とは何か。小顔、くっきりとした二重まぶたに大きな目、全体のバランス。これらに加えて大切なのが左右の対称性だ。
映画批評サイトのTC Candlerが毎年発表している「世界でもっとも美しい顔ベスト100」を見ても、選ばれたのはシンメトリーに近い、整った顔立ちをした女性が多い。日本人でランクインした佐々木希さんや浜崎あゆみさんもそうだ。
顔の対称性と健康状態に関連性はない?
男女を問わず、左右の対称性が高い顔は異性にとって魅力的に映ることが、過去の研究で明らかにされている。進化心理学の分野では、その理由として「良い遺伝子」説が支持されてきた。顔の対称性の度合いはその人の健康状態を表すとする仮説だ。対称性が崩れる原因は、発達の過程で栄養不良や病気などの環境的な要因や、突然変異などの遺伝子的な要因が働くため。左右対称であるということは、その個体が成長過程でこれらの悪影響を受けなかったことを表している。良い遺伝子を残すためには健康なパートナーを選ぶ。このため左右対称な顔が好まれる(モテる)という理屈だ。
しかし、英国ブルネル大学のニコラス・パウンド氏らはこの説に疑問を呈している。先ごろ『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されたパウンド氏らの研究結果によると、顔の対称性と健康状態に関連性は認められなかった。研究は15歳のイギリス人男女4,732人(男子2,226人、女子2,506人)を対象に行われた。
3D画像データから顔の対称性の度合いを測定し、各自の病歴との関連性を調べた。病歴については「体調不良を起こしていた期間」「下痢や嘔吐、発熱など10の症状のうちいずれかを発症した1年あたりの平均回数」「はしかや水ぼうそうなど16の感染症にかかった回数」の3つの項目を調査。いずれの項目についても顔の対称性との有意な関連性は見られなかった。同様の研究は過去にもあるが、被験者が数十人~多くても数百人レベルで期間も短い。大規模で長期にわたる調査は今回が初めてだ。
顔の対称性が崩れる原因が健康状態とは関係がないという結果を、医師はどうみるだろうか。近畿大学医学部教授の山田秀和氏に聞いた。教授は抗加齢医学や美容皮膚科を専門とする医師で「アンチエイジング医師団」のメンバーの一人だ。
「健康状態の測定方法や内容にもよりますが、個人的には顔の対称性と健康状態には関係があるのではないかと考えています。表情筋や骨格の問題、さらには血管、リンパ管、神経、脂肪組織などがさまざまなレベルでかかわってくるからです。脂肪萎縮症などの内的要因で左右差が強く出ることも。しわやたるみに関しては、紫外線の影響によって、トラックの運転手の顔に左右差が出るという話はよく知られています」
確かに、パウンド氏らの研究報告は進化心理学の観点から子どものころの健康状態と15歳時点での顔の対称性との関連を調べた結果であり、その後の健康状態が顔の対称性と関わってくる可能性については触れられていない。山田教授が指摘するように、直接的な要因で顔の片側だけが崩れてしまうケースもある。大人になっても左右対称な顔を保っている人は、さまざまな要素を満たした貴重な存在と言えるだろう。