銀行や信用金庫などの他行向け振り込み時間の延長をめぐり、業界内で綱引きが繰り広げられている。土日祝日や夜間を含めた大幅な延長に前向きな姿勢を示す大手行に対し、コスト増を懸念する地方銀行や信用金庫は難色を示している。
全国銀行協会(全銀協)は年内に方針を示すとしているが、具体的な延長時間や延長開始時期の落としどころは見えない。
金融庁「たった1時間では」
「銀行振り込み1時間延長 午後4時 即時決済広げる」
2014年10月10日の日本経済新聞朝刊1面トップは、現在午後3時までの振り込み時間を4時まで1時間延長する案が有力になったことを大々的に報じた。金融機関同士がお金をやり取りする「全国銀行データシステム」(全銀システム)の稼働は現在、午前8時半~午後3時半。時間外や休日にお金を振り込んでも相手の口座に入金されるのは翌営業日になり、インターネットショッピングや企業間の決済に不便との声が上がっていた。このため、日経新聞の報道を受けて、ネット上では「4時まで延長されれば便利になる」などと歓迎するコメントが飛び交った。
しかし、この記事を読んだ金融庁幹部は「たった1時間の延長では、決済サービスの高度化とは言えない」と厳しい表情を見せる。政府は6月にまとめた成長戦略に、経済のインフラである金融サービスの高度化を盛り込み、銀行業界に24時間・365日決済が可能なシステムの導入検討を促してきた。全銀協はこれを受けて検討部会を設け、議論してきたが、その結果が「1時間延長」では当局として到底受け入れられないというわけだ。
銀行業界では「1時間延長」の情報の出所は「振り込み時間の延長に慎重な中小金融機関ではないか」との見方がもっぱらだ。24時間・365日決済を可能にするためには、システム対応や要員配置などに膨大なコストがかかり、地方銀行を中心に抵抗感が根強い。このため、記事には「小幅な延長にとどめることを既定路線化する狙いがあったのではないか」との見立てがささやかれている。
決定までに紆余曲折ありそう
世界では、24時間・365日の決済サービスが広がりつつある。英国は2008年にいつでも即時決済が可能なシステムを導入した。送金額に約1700万円の上限があるものの、個人の利用者が増えている。シンガポールなどが同様のシステムを採用し、米国も導入に向けた議論がスタートしている。「小幅な延長にとどまれば、日本の決済サービスだけが時代遅れになる」(金融当局者)との懸念もあり、大手行の間では「どうせ延長するなら、土日や祝日、夜間にまで踏み込まなければ意味がない」との声が強い。
業界内の意見調整はほとんど進んでいないのが現状だ。全銀協が10月16日に公表した延長に向けての中間報告は、①現行システムの稼働時間を加盟全行で拡大、②新たなシステムを構築し、土日・祝日を含めて利用時間を拡大――の2案を示すにとどまり、具体的な延長時間や開始時期への言及はなかった。
全銀協の平野信行会長(三菱東京UFJ銀行頭取)は記者会見で「年内には結論を出したい」と意気込みを語ったが、決定までには紆余曲折がありそうだ。さらに、政府・与党が要請している24時間化は大手行の間でも「費用に見合うニーズがあるのか」(幹部)と疑問視する声もあり、どれだけ時間を延ばせるか、難しい選択を迫られる。