韓国「サムスン電子」の業績悪化の影響が、日本企業に波及してきた。リチウムイオン電池の製造を手がける日立マクセルは、2015年3月期の業績を下方修正するとともに、人員削減のリストラ策を打ち出した。
2014年3月、同社は日立製作所が100%保有していた株式を放出することで東京証券取引所第1部に再上場。リチウムイオン電池事業を強化して事業拡大を図る計画だったが、わずか7か月で計画見直しに追い込まれた。
上場から7か月で業績予想を下方修正
「中国メーカーの台頭でこの夏ごろからスマートフォンの市場環境が急激に変わった。ここまでとは想定していなかった」――。日立マクセルの千歳喜弘社長は記者会見で、そう言って唇を噛んだ。
2014年10月22日、同社は15年3月期の業績予想(連結ベース)の下方修正を発表。売上高を当初予想の1670億円から1540億円に、営業利益も85億円から51億円に、それぞれ修正した。
その要因は、リチウムイオン電池の主要な供給先になっているサムスン電子のスマホ事業の不振が影響して、「リチウムイオン電池事業で当初予想していた収益が見込めなくなったため」としている。
スマホ市場は、中国のファーウェイやシャオミ、レノボが販売する「低価格帯」(ローエンド)のものと、米アップルの「iPhone」やサムスン電子の「ギャラクシー」などの高価格帯(ハイエンド)に分かれている。
日立マクセルは、「数量は全体的には増えているのですが、ローエンドの伸びが大きく、相対的にハイエンドは減ってきている状況にあります」と説明。サムスン電子の「ギャラクシー」のようなハイエンド向けのリチウムイオン電池の受注が急減したことの煽りを食った。
リチウムイオン電池の世界市場は、サムスンSDIやパナソニック、LG化学などが上位を占める。電池メーカーとして規模の小さい日立マクセルは、それもあってハイエンド向けに照準を合わせていたようだ。
スマホにかかわる日本企業、枚挙にいとまがない
リチウムイオン電池の供給先について、日立マクセルは「足もとで、大得意先のシェアは50%ありません」としており、早急にハイエンド向けスマホに依存した体質の改善を図る。
そのため、併せて発表した経営合理化策では早期退職制度を導入。リチウムイオン電池を生産している京都府の工場を中心に、2015年3月までに国内従業員の最大10%にあたる250人を削減する。
早期退職の対象は40歳以上の正社員。募集期間は2014年11月下旬から15年1月15日までで、退職日は15年2月28日付。また、経営責任を明確化するため、5人の取締役と4人の執行役が役員報酬を10月から自主的に一部返上することも明らかにした。
退職割増金など必要な費用は有価証券などの資産の売却益でまかなう考えで、そのため現時点の業績予想では、当期純利益は67億5000万円に据え置いた。
タッチパネルや液晶パネル、高性能プロセッサ、大容量DRAM、フラッシュメモリ、無線LANやGPSモジュール、ジャイロセンサー、加速度センサー、電子コンパス......。スマートフォンの部品は多種多様だ。
2014年9月に発売された米アップルの「iPhone6」に搭載されていた部品は、半分が日本製だったと話題になったが、実際に多くの日本製の部品が採用されている。
スマホにかかわる日本企業は、パナソニックやシャープ、ソニー、東芝、アドバンテスト、京セラ、村田製作所、TDKなど、枚挙にいとまがないほど。
日立マクセルの千歳喜弘社長は、中国のスマホメーカーの拡大によるハイエンド向けのリチウムイオン電池の急減は「3月の株式再上場時には予想できなかった」と話した。現在、スマホ市場は激変中というわけで、業績修正を余儀なくされる日本企業は、まだありそうだ。