北海道電力、東北電力、四国電力、九州電力、沖縄電力の5社が再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)に基づく電力の新規受け入れを当面中断したことが波紋を広げている。「再生エネルギーの供給量が急増し、電力会社の受け入れ能力が足りなくなる」というのが理由だ。
しかし、IEA(国際エネルギー機関)によると、水力を除く日本の再生エネルギーの割合(2013年発表)は、わずか4.7%。デンマークの50.0%、ポルトガルの30.2%、ドイツの20.1%などと比べて極端に低い。それにもかかわらず、どうして今、買い取りを中断しなくてはいけないのか?
わかりにくい説明
2014年8月に再生エネルギーの接続可能量の上限に達した沖縄電力に続き、九州電力が9月25日、北海道電力など3社が10月1日から、太陽光発電など再生エネルギーの新規受け入れを保留した。九電の場合、再生エネルギー発電事業者からの申し込み量(7月末現在)をすべて受け入れた場合、「太陽光・風力の発電量は約1260万キロワットになり、冷暖房の使用が少ない春や秋の晴天時などには、昼間の消費電力(約800万キロワット)を太陽光・風力の発電電力が上回り、需給バランスが崩れて電力の安定供給が困難になる」という。
だが、この説明は、ちょっとわかりにくい。九電管内の実際の再生エネルギーは、まだ1260万キロワットに達していないからだ。1260万キロワットとは、九電とFITに基づき契約した再エネ発電事業者が、これから予定通りすべて発電した場合の発電能力(設備容量)を指す。実際には7月末現在、九電管内で発電できる再生エネルギーの設備容量は390万キロワットしかなく、九電の夏季の最大需要(1634万キロワット)に占める割合は23%に過ぎない。
最大需要に再生エネルギーが占める割合(設備容量導入率)は、九電が約2割に達し、全国の10電力会社の中で最も導入が進んでいるのは事実だ。しかし、この値はドイツ、デンマーク、スペイン、ポルトガルなどでは6~9割に達しており、「欧州の再エネ先進国レベルに達するまで、日本の電力会社はまだまだ導入できるはず。それなのに2割程度で受け入れを中断するのはおかしい」という疑問がわく。
新たな国民負担の議論に
ただ、再生エネルギーや電力業界に詳しい専門家によると、電力会社にも事情はある。「導入率が6割程度に達すると、今の日本の電力会社の系統(電力を供給するための発電・変電・送電・配電を統合したシステム)では間に合わなくなる。そのためには導入量を抑えるか、欧州のように系統を強化する必要がある」という。停電などを起こさずに電力を安定的に供給するには、この統合システムのバランスを崩さない運用が重要で、天候などで発電量が増減する再生エネルギーが増えると、安定が崩れ、第停電などが発生しかねないというのだ。
先頭を走る九電の場合、今のペースだと再生エネルギー比率が6割に達するまで「早ければ1~2年」とみられ、専門家は「今は道路が渋滞していないが、いずれ渋滞するのがわかっているので、今のうちに対策を立てようとしている」と、早めの受け入れ停止の狙いを推測する。
九電など5社の買い取り中断を受け、小渕優子経済産業相(当時)は「様々な影響が出ていることは認識している。電力会社の受入量が本当にその量であるのか、第三者がしっかり検討しないといけない。もっと増やす手立てがないのか、併せて検証していく」と発言。経産省は総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)に「系統ワーキンググループ」を設け、電力会社が再生エネルギーを最大限受け入れることができるよう、接続可能量や系統インフラの整備について検討することになった。
しかし、将来的に再生エネルギーを増やしていくためには、いずれ欧州並みの系統インフラの整備が必要となる。それは電力自由化で発送電が分離されても同じこと。道路に例えるなら、未舗装路を舗装し、さらに2車線に増やすような作業だという。現行制度では、その設備投資は再生エネルギー発電事業者が負担することになっている。政府の検討が進むにつれ、電気料金引き上げという新たな国民負担が議論を呼ぶのは間違いない。