対策は始まったが、効果は上がっていない
中国・広東省に住む日本人男性に聞くと、現地は北京に比べてPM2.5の濃度がずっと低いこともあり、危機感が迫っているとは感じていないと話す。それでも東京の濃度と比べれば、5倍の高さに達する。子連れで何年も暮らすとなると、家族全員での駐在をためらうし、いったん赴任しても住環境の厳しさから「早く日本に帰りたい」と思うようになるのかもしれない。
中国問題を専門とするジャーナリスト、富坂聰氏は著書「中国汚染の真相」の中で、2014年3月に北京を訪問した際に交わした全国紙の北京特派員との会話の内容を披露している。特派員は、長期滞在者の北京離れが大気汚染によって一気に加速したとの感想を話し、「中でも目立って増えているのが、家族だけを日本に帰すという動き」だと続けたという。日本人の引っ越しを請け負う日本の業者から聞いたとの「裏付け」も示したそうだ。これについて富坂氏は、「おそらく日本以上に環境に対するアンテナが敏感な欧米にも波及しているはずだ」と書いている。
中国政府は、自動車の排気ガス規制の強化や、エネルギー源として使われる石炭から排出される汚染物質除去など対策を講じ始めたが、今のところ劇的な効果は上がっていない。1年前の報道を振り返ると、北京だけでなく中国東北部や、周辺の河北省、河南省、安徽省といった地域までもPM2.5の濃度が上昇し、気象当局が外出を控えるよう呼びかけていた。今年の冬、さらにそれ以降も状況の改善が見込めないようだと、在留日本人や外国人の「中国離れ」がいっそう進む恐れが出てくる。