日本のエース、本田圭佑の復活だ。2014年10月20日、所属するイタリア・セリエAのACミランでは、ヴェローナ戦で移籍後初となる1試合2ゴールをマーク。リーグ得点王1位タイに躍り出て、イタリアでの評価は急上昇している。
日本のサポーターは、優勝を公言しながら惨敗に終わったW杯直後に「口田圭佑(くちだけ、いすけ)」と揶揄したが、再び「本田△(ほんださん、カッケー)」と手のひらを返している。復活の要因は何だろうか。
「一番はコンディション」
昨シーズンはリーグ戦でわずか1得点。辛口で知られるイタリアの各メディアからは相次いでワーストイレブンに選出された。チームも欧州チャンピオンズリーグの出場を逃す8位に終わり、まさに「戦犯」といった扱いで、厳しい批判の矢面に立たされた。
しかし、今年は開幕戦からスタメンに名を連ね、ここまで7試合6得点と大爆発。イタリアメディアも「本田なしには考えられない」と手放しで、連日MVP級の賛辞を送っている。
本田復活の要因は何か。「フットボールレフェリージャーナル」を運営するサッカージャーナリストの石井紘人氏は「一番はコンディションです」と語る。ミラン移籍後からW杯まではコンディションが安定せず、本来のパフォーマンスが発揮できなかった。しかし今シーズンについて、石井氏は
「本田はフル出場するなど、長い時間ピッチに立つことでコンディションが安定するタイプ。試合に出続けることで調子はよくなってきます」
と分析する。開幕前のプレシーズンマッチで活躍し、自らつかんだチャンスを物にした形だ。
ヴェローナ戦の1点目は、自陣からのカウンター時に右サイドをするすると駆け上がり、味方からのパスをダイレクトで決めた。2点目はサイドに開いてボールをもらうと、ドリブルからゴールまで1人で持ち込んだ。昨シーズンに「ドリブルができない、スピードがない」と批判を受け続けたことがうそのようだ。こうした質の高いオフザボールの動きについて、「コンディションがよくなった表れ」と石井氏は語る。
戦術のフィット、チームメートからの信頼も加わる
新監督フィリッポ・インザーギの戦術と合致したことも大きい。昨シーズンは監督が途中交代するなどして戦術や選手の役割分担がはっきりせず、混乱するチームに本田も巻き込まれてしまった形だ。
昨シーズンは4‐2‐3‐1、今シーズンは4‐3‐3とフォーメーションこそ違うものの、どちらも同じ右サイドを任されている。どのような違いがあるのだろうか。石井氏は
「昨シーズンは同じ右サイドでも、『外に張ってろ』と指示を与えられて孤立してしまい、スピードがないだけに難しさがありました。しかし、今シーズンは中に入ってくるなど自由が与えられ、自分のプレーができています」
という。
また、チームメートからの信頼も厚いようだ。キエーボ戦では味方とフリーキックのキッカーを争う場面があった。ボールを奪い合うなど、映像ではかなりやり合っているようにも見えたが、石井氏は「『これぐらいなら大丈夫』という判断があったのでしょう」という。多少のエゴイズムを見せられるだけの信頼を得ているというのだ。実際、シュートが決まると、駆け寄ってきた大勢のチームメートと抱擁を交わしている。
コンディションの安定、戦術のフィット、チームメートからの信頼。すべてがかみ合っている印象だ。あえて「つまずく可能性」について聞いてみると、「チームが勝てなくなって監督が代わってしまう場合でしょうか。ミランはビッグクラブなので、新たにスーパースターを獲得した場合も本田に影響があるかもしれません」(石井氏)。チームは現在、4勝2分1敗の4位につけて、上位をキープ。ガッリアーニ副会長も「昨シーズン送られてきたのは本田の弟だった。だから抗議して本物の本田を送ってもらったんだ」と冗談を飛ばすほどに評価している。どうやら杞憂に終わりそうだ。
日本代表でもアギーレ監督は4‐3‐3の右FWとして起用し、「チームは未完成ながら、本田を主力と考えているでしょう」と石井氏が言うように、今シーズンはクラブ、代表の両方でさらなる活躍が期待できそうだ。