損害保険業界がiPS細胞(人工多能性幹細胞)などを使う再生医療分野に熱い視線を向けている。損保大手各社は今秋、臨床研究で患者に健康被害が生じた時に、研究機関が支払う補償金をカバーする保険を相次いで投入する方針。
主力の自動車保険などが頭打ちとなるなか、各社は再生医療を新たな成長分野と位置づけており、水面下での主導権争いが始まっている。
再生医療安全性確保法の11月施行に合わせる
再生医療の臨床研究は実施例が少ないためリスク評価が難しく、これまでは治療で起きた事故をカバーする損害保険の商品設計が困難だった。医師や研究者が医療事故で患者へ多額の賠償金の支払いを迫られる懸念がぬぐえず、臨床研究を安心して進めるためには、損保商品の開発が課題となっていた。そこで、臨床研究の手続きを定めた再生医療安全性確保法の11月施行に合わせて、日本再生医療学会が被害補償の指針を策定。損保業界と連携し、保険制度の整備を進めていた。
新商品で先手を打ったのは三井住友海上火災保険だ。学会と連携して開発した新たな保険の発売を2014年9月末に発表した。臨床研究で健康被害が発生した場合、治療との因果関係が明確でなくても、患者1人当たり最大3000万円を支払うことなどが新商品の柱。同じMS&ADグループのあいおいニッセイ同和損保のほか、損保ジャパン日本興亜と共同で保険を引き受け、リスクを分散する。三井住友海上は数年後に1000件規模の契約を目指しており、成長が期待される再生医療分野で一気にシェアを獲得したい考えだ。
他社も三井住友海上の後塵を拝する立場に甘んじるつもりはない。三井住友海上と共同で保険を引き受ける損保ジャパン日本興亜は、独自の保険商品も開発しており、「こちらの販売にも当然、力を入れる」(同社幹部)という。損保業界をリードしてきた東京海上日動火災保険も今秋、臨床研究向けの保険を投入して応戦する構えで、シェア争いが激化するのは必至の情勢だ。