独フォルクスワーゲン(VW)やBMWなど、欧州車で主流になっている「ダウンサイジングターボ」エンジンが、日本でも注目されてきた。
「ダウンサイジングターボ」は昔のターボと違い、馬力があってしかも低燃費なのが特徴だ。日本で「低燃費で環境性能に富んでいる」といえば、ハイブリッドカー(HV)や電気自動車(EV)だが、欧州ではガソリンで走る「ダウンサイジングターボ」がいまや最先端だ。いつの間にか、中核的技術で日本は欧州に差をつけられた可能性がある。
「直噴ターボ」は小さな排気量でパワフルな走り
クルマの環境性能は、日欧で傾向がはっきりと別れている。日本で環境性能の主役は、なんといってもHVとEV。一方、欧州では燃費をよくするために排気量を小さくして、そのパワーダウンを補うためにターボチャージャーと組み合わせている、「ダウンサイジングターボ」が主流という。
燃費に加えて、「走り」を重視する欧州ではVWやBMW、スウェーデンのVolvo、フランスのプジョーなどもダウンサイジングターボ車に力を入れており、日本にも送り込んでいる。
日本では「ターボは燃費が悪い」というイメージが強いが、欧州車のダウンサイジングターボは燃費がいいとされる。その一つの要因が、「直噴(ダイレクトインジェクション)」との組み合わせ。小さなエンジンで高いパワーを発揮するターボは発熱が大きいため、燃料冷却という手法が必要だが、燃料冷却の効果が大きい直噴にすることで、燃焼に必要な最小限の燃料だけで十分な冷却ができるようになった。
加えて、直噴はターボの大敵であるノッキングを防止できるというのもメリット。ガソリン車のため、HVやEVに比べて安価なこともある。
そうした中で、2014年6月20日に発売された富士重工業(スバル)の新型スポーツワゴン、「レヴォーグ」が好調だ。累計販売台数は9月末で、2万1314台となった。
人気の理由は、エンジン。これまでスバルは、ターボエンジンを継続して積極的に開発。レガシィなどの看板モデルにもターボを搭載してきた。レヴォーグは日本車で初めて1.6リットルの小型車に、欧州で主流になっている「ダウンサイジングターボ」を搭載したからだ。
新たに開発した、独自の「水平対向直噴ターボエンジン」は、現行のレガシィの2.5リッター車に相当する高い出力を確保しながら、レガシィの燃費(1リットルあたり14.4キロメートル)を上回る、1リットルあたり17.4キロメートル(JC08モード)の燃費性能を実現した。
同社は「1.6リッター車でありながら、2.0リッター以上のパフォーマンス(走り)をみせるクルマに仕上がっています」と胸を張る。
ただ、現在のところ国内市場のみの販売で、欧州など海外市場での販売予定はない。
スカイライン2000GT‐tのターボエンジンは「ベンツ」製
「ダウンサイジングターボ」は、じつは日本の税制面でも「お得」とされる。日本の自動車税は排気量で決まり、エンジンの出力や過給器の有無などは問われないからだ。
たとえば、フランスやイタリアなどはエンジン出力に対して課税される。半面、日本では2.5リットルと同じ程度のパワーを発揮する、「水平対向直噴ターボエンジン」搭載のスバルの「レヴォーグ」であっても、自動車税はあくまで1.6リットルという排気量で決まる。つまり、「燃費」と「走り」に加えて、経済的な優位性が見込めるわけだ。
1979年に国産初のターボエンジン搭載車を送り込んだ日産自動車も、スポーツ用多目的車(SUV)の「ジューク」や、看板の高級スポーツセダン「スカイライン」にターボエンジンを搭載。2014年に相次いで発売した。
ただ、6月に発売したスカイライン2000GT‐tには、ルノー・日産とダイムラーとの戦略的提携の成果として、独メルセデス・ベンツで使っているターボエンジンを採用した。欧州勢が得意とする排気量を小さくしながら大きな出力を得られるターボエンジンを流用することで、エンジンの開発費用とそれにかかる時間を節約したわけだ。
日本車はHVやEV、燃料電池車などの研究で世界をリードしていることは間違いない。しかし、世界を走るクルマの多くは今なおガソリンエンジン車であって、HVではない。環境性能をめぐっては、欧州車にクリーンディーゼル車で後塵を拝し、世界的なトレンドになりつつあるダウンサイジングターボ車でも後れをとってしまったようだ。