産経新聞ソウル支局長の起訴を通じて、韓国の国内メディアを脅そうとしている――。英エコノミスト誌は、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の意図を特集記事でこう指摘した。その真意は、言論統制にあるというのだ。
「踏んだり蹴ったり」。エコノミスト誌は2014年10月18日号の記事タイトルで、産経新聞について、こんな表現をした。
「起訴を通じて、国内メディアを脅そうとした」
確かに、産経のサイト記事は、朝鮮日報のコラムを元ネタにしていたが、検察に名誉棄損で目を付けられたのは産経だけだった。しかも、ごく一部を除き、韓国メディアからは激しいバッシングを受けている。朝鮮日報なぞは、なぜ自己否定にならないのか不思議なくらい、産経の記事をゴミ扱いしたほどだ。
しかし、エコノミスト誌は、こうした状況について、産経が「スケープゴート」にされていると指摘する。
朴槿恵大統領は、経済政策の失敗で景気が低迷していると批判され、今度はセウォル号沈没事故でも、人命救助に失態があったと攻撃に晒された。できれば、韓国メディアの統制をしたいはずだが、そうすれば、もっと激しい批判を浴びてしまう。
韓国で右翼的と批判されている産経新聞なら、刑罰を科しても批判は少ないだろう。しかも、それを通じて、国内メディアをけん制することもできる。産経支局長の起訴について、エコノミスト誌がスケープゴートだとしたのは、そのような意味からだった。
記事では、検察による起訴までも許したことで、「韓国メディアも自己検閲しないといけなくなる」と皮肉を込めて書いている。つまり、自分で自分の首を絞めたということだ。
今後、検察の目が国内メディアに向かえば、それは言論統制につながる。エコノミスト誌の記事では、そのことについて、朴大統領の父親である故・朴正熙大統領の独裁に戻るような動きだと、韓国内の憂慮の声を伝えた。
ネット上でも検閲強化、「サイバー亡命」起きる
エコノミスト誌はまた、メディアばかりでなく、ネット上の言論についても統制の動きが出ていると報じている。
事実、韓国の捜査当局が通信秘密保護法の下にネット上のデータ押収を試みた行為は、2013年1~6月が983件だったが、その後は急激に増え、14年1~6月は2131件にまで膨れ上がっている。
朴槿恵大統領は、それでもネット上で高まる批判に業を煮やし、2014年9月16日の閣議で、「大統領への冒涜的な発言が度を超している」と発言した。これを受けて、韓国の検察は18日、ネット上でリアルタイムの監視を行うことを表明し、専門チームを作って名誉棄損などへの摘発強化に乗り出した。
こうした動きは、「サイバー検閲」だと、韓国のネット上で大騒ぎになった。
監視が強いとみられた国内企業の「カカオトーク」からは、利用者の流出が相次ぎ、セキュリティ機能が高いとされたドイツの「テレグラム」への大移動が起こった。報道によると、10月上旬の1週間だけで約150万人もの移動があったというのだ。
これは、韓国のネット上で「サイバー亡命」と呼ばれている。ネット上の言論統制を強化した結果、国内企業ではなく海外企業が恩恵を受けるようになったとしたら、皮肉なことだろう。