日本学術会議がBSL-4施設の必要性を提言
前出の「エボラ出血熱診断マニュアル」によると、エボラウイルスの感染が疑われる場合は、血液や、のどから採取した粘膜、尿を診断する。だが検体は取り出せても、ウイルスの分離や培養は許されない。医師・ライターの村中璃子氏は、ウェブマガジン「WEDGE Infinity」2014年10月14日掲載の記事でこの点に触れ、「厳密に言えば、現状では、エボラ出血熱を疑う患者が見つかった場合、海外に検体を送り、確定診断が出るのを待つしかない」と指摘している。
日本学術会議は2014年3月20日、国内におけるBSL-4施設の必要性に関する提言をまとめた。理由は、国内でBSL-4病原体による感染症が発生した際の診断、基礎研究および診断法やワクチン・治療薬開発などの応用研究、研究者や緊急時対応の人材育成のためと多岐にわたる。一方、施設の建設にあたっては地域住民の理解を得ることが最も大切であり、バイオセキュリティーの観点から施設の安全管理や運営に国の関与を促している。
これまで、国内2か所のBSL-4施設は地元の理解を得られていない。長崎大学でも施設の設置を計画しているが、反対する市民が署名活動を実施したと報じられた。
医学系専門紙の記者に取材すると、あらゆる面で前例がないエボラ出血熱の対応方法の検討に、国内の医療関係者は苦慮していると明かす。厚労省によると、ウイルス感染の疑いがある患者は「国立感染症研究所で迅速に検査を行い、感染の有無を確認」するという。感染が認められれば、感染症指定医療機関に送られて治療が施される。ただし、国内ではその判断ができない。しかも現時点で治療薬は未承認と「ないないずくし」なのだ。
もし今後国内にエボラウイルスの危機が迫った場合、「例えば国立感染症研究所のBSL-4施設の使用を時限的に認めるような、緊急措置がとられるかもしれません。しかし周辺住民の不安は根強いですから、簡単にはいかないでしょう」と専門紙記者は話す。
今のところ、症状が出ていない患者からの感染や空気感染はないとみられ、厚労省は「インフルエンザ等の疾患とは異なり、簡単にヒトからヒトに伝播する病気ではありません」と説明するが、不安は拭えない。