化粧品大手のコーセーは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使い、67歳の日本人男性の肌の細胞を、同じ人の36歳時点の肌とほぼ同じ状態に若返らせることに成功した。
その差は30歳超。「いつまでも若々しくありたい」という多くの女性には朗報なのだが、あまりの若返りにインターネットでは驚きと、「ホントか」と訝る声が交錯している。
「テロメア」の長さに着目、iPS細胞が皮膚ダメージを「初期化」
「見た目年齢を10歳若返らせる肌習慣」「20歳若返る!健康的な美肌づくり」...... 巷には肌の若返りのための健康法やアンチエイジングの研究、基礎化粧品などの情報であふれている。肌の若返りは、いまや女性たちの垂涎の的なのだ。
そうしたなか、化粧品大手のコーセーは2014年10月15日、「iPS細胞(人工多能性幹細胞)が老化による皮膚のダメージを初期化する」との研究成果を明らかにし、これをもとにiPS細胞の皮膚科学への応用と化粧品の開発に応用する研究を開始する、と発表した。
京都大学iPS細胞研究所の加治和彦特任教授(現コーセー研究顧問)と同社は、老化を示す指標とされる染色体の一部である「テロメア」の長さに着目。テロメアは細胞の染色体の両端にある構造で、細胞分裂を繰り返すと短くなり、ある限界を超えて短くなると細胞分裂が止まるとされる。
今回発表の研究では、老化した細胞を、iPS細胞を用いて初期化することで、テロメアがどの程度回復するか調べた。
1980年以降、同じ人から定期的に提供を受けていた、36~67歳の5つの異なる年齢の肌の細胞を、京都大学iPS細胞研究所でiPS細胞にして分析したところ、加齢とともに短くなるはずのテロメアの状態は5つのすべての年代で回復し、長くなったのが確認された。
つまり67歳の肌細胞を、36歳時のそれとほぼ同じ状態に若返らせることができたわけだ。
さらに36歳から67歳までに得られた、すべての線維芽細胞から作製したiPS 細胞を皮膚表面(ケラチノサイト)に分化させることに成功。このことから、細胞に刻まれた老化の痕跡は初期化の過程で取り除かれ、iPS細胞の機能にも影響を及ぼさないことが示唆された。
コーセーは、「この研究テーマはiPS細胞研究所のほうから提案があったもので、30年という長い時間をかけて肌細胞を採取し、研究してきた成果です」と話している。