日本経済の景気後退が懸念されている。どの経済指標もあまり芳しくなく、エコノミストらの表情は沈みがち。なかには、不況にもかかわらず物価が上がり続ける状態の、「スタグフレーション」になりつつあるとの指摘もある。
安倍政権に代わって以来、市場では積極的な経済政策がもてはやされてきたはずだが、日本経済はいつの間にか不況の淵に立たされているようだ。
景気のピーク「1月だった公算が大きい」
内閣府が2014年10月8日に発表した9月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足もとの景況感を示す現状判断指数は47.4で、前月から横ばい。景気の良し悪しの境目である50を下回ったままだ。
また、2~3か月後の景気を占う先行き判断指数は前月比1.7ポイント低下の48.7と、4か月連続で悪化した。寄せられたコメントには、「景気回復の話題や実感は都市部や大企業だけで、逆に地方や中小企業は消費税増税や値上げラッシュで以前より悪化しているように感じられる」(北関東の高級レストラン)などがあった。
ただ、内閣府は基調判断を、8月の「緩やかな回復基調が続いており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減の影響も薄れつつある」に据え置いた。
その前日に発表した8月の景気動向指数(CI、速報値、2010年=100)は、景気の現状を示す一致指数が前月に比べて1.4ポイント低下し、108.5だった。低下は2か月ぶりだが、内閣府は景気の基調判断を4か月続いた「足踏みを示している」から、「下方への局面変化を示している」に下方修正した。
消費税率が8%に引き上げられた4月、政府や多くのエコノミストらが「駆け込み需要の反動減は徐々にやわらぐ」とし、7~9月期には再び景気が上向くとみていた。
ところが、8月の景気動向指数では、数か月後の先行きを示す先行指数も1.4ポイント低下の104.0だった。そこからはとても明るさはみえてこない。
もちろん、これらの結果だけをみて景気が後退局面に入っているなどと、軽々な判断を下すことはできないだろう。しかし、第一生命経済研究所経済調査部の主席エコノミスト、新家義貴氏は「少なくともCIから見る限り、足もとの景気が持ち直しているという姿はうかがえない」という。
新家氏は8月の景気動向指数を受けて、「CI一致指数は2014年1月(および3月)をピークとして8月までで合計6.1ポイントも低下しており、低下傾向が鮮明だ」とし、「今年1月をピークに景気後退局面入りしている公算が大きい」とみている。
不況なのに物価が上がる!
2014年10月、乳製品やコーヒー、一部の外食チェーン店や自動車保険料、社会保険料率(厚生年金)も引き上げられるなど、秋の値上げラッシュが相次いでいる。さらには、カップ麺などが15年1月の値上げを発表した。物価の上昇はしばらく続きそうだ。
その一方で、家計の収入は上がらない。8月の毎月勤労統計調査(速報)によると、現金給与総額に物価上昇分を加味した「実質賃金指数」は前年同月に比べて2.6%減で、下げ幅は前月(1.7%減)より0.9ポイント拡大した。これで14か月連続の減少だ。
賃金アップが物価上昇に追いついていないため、「生活は一向に楽にならない」。そう感じている人は多いはずだ。
第一生命経済研究所の主席エコノミスト、永濱利廣氏は「スダグフレーションの可能性」と題したレポートで、「原油価格の上昇により、物価の持続的な上昇と経済活動の停滞が共存すれば、スダグフレーションに陥ることになる」と指摘している。
さらに、東京商工リサーチが10月8日に発表した9月の企業倒産状況によると、円安を原因とした倒産は28件発生し、前年同月の約3倍に膨らんだ。8~10月の急激な円安が追い討ちをかけ、4~9月期の円安倒産は前年同期より2倍超増え、150件に達している。
円安に伴う燃料費の高騰が直撃した運輸業は57件(4~9月期)で最多。次いで卸売業の30件や製造業の27件などが続く。
日本総合研究所調査部・チーフエコノミストの山田久氏は「円安進行の景気への影響をどうみるか」のレポートで、「かつてのような円安=景気にプラスとは言えなくなっている」としている。
すでに日本企業が海外に生産をシフトしていること、日本製品の競争力が低下していること、また原発稼働停止に伴う化石燃料の輸入増加などで輸入量が輸出量を上回っていることが、その要因。しかも、状況は部門ごとに異なっており、大企業製造業を中心とした輸出部門では円安は収益にプラスに働くが、一方で非製造業や中小企業に多い輸入部門とっては「輸入コストの増加を通じてマイナスに作用する」という。
円安の恩恵を受けていない中小企業が儲からなければ、多くの人の賃金が上がらない。不況なのに物価が上がる「スダグフレーション」が現実味を帯びてきたのかもしれない。