東京電力と中部電力は、火力発電事業などの強化に向けた包括的アライアンスの協議に入ることで基本合意したと、2014年10月7日に発表した。
東電の提携先には東京ガスや関西電力など5社が名乗りをあげていたが、火力発電の燃料である液化天然ガス(LNG)の調達規模の大きい中部電力で決着した。この提携が、業態や地域を超えたエネルギー業界再編の呼び水となる可能性もある。
東電にとっても中部電にとってもそれは魅力的な話
「もともと出来レースですよ。中部電力以外に結論はなかった」――。提携交渉の関係者のひとりはこう指摘する。
それは今回の提携の決め手となったのが、火力発電に使うLNGの調達規模の大きさだったからだ。中部電はもともと、原子力発電所は「浜岡」しかなく、火力発電が主体で、LNG調達規模が東電に次ぐ日本2位。東電と合算すると、調達規模は年4000万トン近い規模となり、世界最大の韓国ガス公社と肩を並べる。
規模が大きければ価格交渉力も備わり、コスト削減につなげることを期待できる。東電にとっても中部電にとってもそれは魅力的な話だった。
名乗りをあげた東京ガスのLNG調達規模も、年1200万トンで中部電に次ぐ3位で、客観的には有力候補だった。東京ガス自身もやる気満々だった。だが、東京ガスにとって重要なガス製造設備などまで共同出資会社に移管するよう求める東電に対して、東京ガスの腰が引けたようだ。
関係者からは「中部電に決めるため、東ガスが脱落するよう難題をふっかけた」との解説も聞かれる。
火力発電事業の包括提携は、2014年1月に政府が認定した東電の新たな総合特別事業計画(再建計画)に再建策の柱のとして盛り込まれた。燃料費のみならず、発電所の更新・維持費などを含めて火力発電事業全体のコストを削減することが狙いだ。
東電は実質国有化されている。「オーナー」である政府もはじめから提携先は中部電のつもりだったようだ。電力自由化という経済産業省の旗印の政策を進める上では、まずは電力会社が相手の方がスムーズに行く、との判断があったようだ。
共同出資会社は2015年3月をめどに、東電と中部電が50%ずつを出資し、火力発電事業の新会社として設立する。「東電=政府」に主導権を握られたくない中部電にとってここは譲れない一線だったとされる。
関西電力が東京ガスと組んで対抗勢力形成に動く可能性も
今回の包括提携について、東京電力と中部電力は、「効果が高く、かつ進めやすい分野から順次進める」としている。 そのうえで、共同出資会社は「独立した企業文化と市場から信任される強く健全な経営・財務体質を有し、自律的な事業運営と迅速な意思決定が可能な経営体制が確保されたものとする」と、政府主導にクギを刺した。
中部電が恐れているのは、東電の福島第1原発事故の処理費用と関係づけられることだ。中部電としてもLNG調達の規模拡大は望むところだが、「国策会社」の東電と組むことで、福島原発の賠償などを負担させられてはかなわない、というのが本音。この点について、東電側も中部電の主張を汲んだようだ。
LNG調達のみならず、老朽化した火力発電所の建て替えや海外における天然ガスの権益確保なども担うとされる共同出資会社をめぐっては、どこまで火力発電所を移管するのか、という点も調整の余地が残る。
東電は、将来的な火力発電部門の「事業統合」を視野に入れているという。しかし、中部電は、発電の中核である火力をどこまで共同出資会社に切り出すかについて、必ずしもまとまっていない。火力をすべて一緒にするなら、それはもはや東電と中部電が経営統合することに近づくからだ。火力発電設備をどこまで新会社に移すのかは今後、最大の協議のポイントといえる。
一方、東電・中部電の提携には、中部電と近い関係にある大阪ガスが加わる可能性もなお残っているとの見方もある。これがエネルギー業界再編の呼び水となり、関西電力が東ガスと組んで対抗勢力形成に動く可能性もあり、水面下で強烈な駆け引きが展開されそうな雲行きだ。