戦後最悪の死者51人、行方不明13人もの被害を出した御嶽山の噴火は、多くの人が観光業で暮らしを支えている長野県木曽町や王滝村などに深刻な事態をもたらしている。
それにもかかわらず、木曽町観光協会などには責任を問う批判が寄せられており、インターネットでは「ひどすぎる」と、顰蹙を買っている。
文化と歴史を伝える名所旧跡の宝庫
長野県木曽町は、江戸時代には天下の4大関所のひとつ「福島関所」が設けられ、中山道の交通の要として栄えた。いまもJR線の駅名に「木曽福島」の名前が残る。
木曽義仲ゆかりの地で文化と歴史を伝える名所旧跡が豊富なことで知られるが、加えて、アウトドアスポーツやキャンプの拠点、また別荘地としてにぎわう「木曽駒高原」、希少な在来種「木曽馬」のふるさとで、御嶽山を見晴らす標高1000~1200mの「開田高原」、御嶽山に通じる登山道の中間に位置する「三岳」は、長閑な山あいの集落と山岳信仰の歴史がマッチしたエリアとして人気で、多くの観光客を集める。
こうした観光名所が、御嶽山の噴火で大打撃を受けている。木曽町観光協会が噴火直後の2014年9月30日にまとめた「噴火による影響の度合いなどに関するアンケート調査」(31業者が回答)によると、キャンセルによる利用客の減少など現在の影響について、68%が「大影響」、26%が「影響あり」と答え、「影響が出ている」とした業者は約9割にのぼった。また、今秋(11月末まで)の見通しも39%が「死活問題」、57%が「大影響」と答えた。
すでに、御嶽山の噴火口から10キロメートル以上離れた距離にある開田高原では、温泉施設などが平常どおり営業しているにもかかわらず、「開田高原が封鎖された」などの問い合わせがあり、観光客が激減。また10月4日、5日には、地元で毎年約1万3000人が訪れる人気のイベント「木曽駒高原きのこまつり」と「開田高原そば祭り」が中止された。
多くの犠牲者や行方不明者のことを考えると、なかなかPRに踏み切れない事情はあるが、「町全体が火山灰に覆われていると思い込んでいる人が多い」といい、風評被害による影響がないわけではない。
御嶽山は信者が全国から集まる山岳信仰の地
そうしたなか、追い討ちをかけるように木曽町観光協会には電話やメールで、「噴火するかもしれない火山とわかっていて、どうして観光地として売り出したのか」「どう責任をとるのか」といった批判が20~30件にのぼった。「きのう(10月5日)、きょうは止んでいます」と、同協会は話す。
こうした問い合わせは木曽町役場にも寄せられているようだが、町役場は「さまざまなご意見はうかがっていますし、しっかり受けとめたいと考えていますが、内容は公開できません」と話す。
また、御嶽山の登山口にあたり、ホームページで火山情報を提供している王滝村役場は、「今回の噴火は火山性微動などの予兆の情報がありませんでした。あれば(情報を)提供していますし、相応の対応もできます。何もしていないわけではないのに...」と、困惑ぎみだ。
心ない批判にインターネットでは、
「誰が天災に責任とれるんだ。いいかげんにしろ。同じ日本人として恥ずかしいわ」
「気持ちはわからないでもないが怒りをぶつけるところが違う」
「いったい何様のつもりだ。以前から安全対策の虚弱性を指摘していたのならともかく、いきなり現れて訳わかんねーことぬかすな」
など、憤りの声が飛んでいる。
また、
「富士山も登山禁止にするつもりか」
「死と隣合わせでなけりゃ信仰なんてされねぇよ。わかるだろ。日本人なら」
といった声があるように、そもそも御嶽山は「御嶽教」という山岳信仰の地で、信者が全国から集まる。
木曽町観光協会は「数字は不明」としたうえで、「近年は高齢化で、訪れる信者は年々少なくなっていますが、いまでも熱心な信者の方が訪ねてきます。冬のあいだ里宮(王滝御嶽神社)に祭っている神様を、夏に奥宮(御嶽山頂)に移すので、多くの信者は夏(8月)に山頂をめざすんです」と、説明する。
そういった信者らが支えてきた土地でもあるわけだ。