「幻の大蝶」とも「ヒマラヤの貴婦人」とも呼ばれるチョウがブータンに生息しています。ブータンの国蝶に指定されているブータンシンボリアゲハです。日本の国内に二つしかないこのチョウの標本の展示会が2014年10月4日、大槌町の中央公民館で開かれました。
ブータンシンボリアゲハはブータンのタシャンツェ渓谷に生息しています。ヒマラヤ山脈の中腹で、標高2200メートル。首都ティンプーから車で5日、登山で2日ほどかかる場所です。
1933年に英国人によって採集され、この時の標本が大英自然史博物館に保存されています。その後、確認されることなく、世界のチョウ愛好者から「秘蝶」として、聖杯のように崇(あが)められてきました。
羽を広げた長さが12センチほどあります。大人の手のひらほどの大きさで、黒地に黄色のライン、後ろの羽の真紅の文様が特徴です。3本の尾を持ち、美しく妖艶な模様や形から、「ヒマラヤの貴婦人」と称されるようになりました。
このチョウは、日本とブータンとの共同調査隊により2011年8月、78年ぶりに再発見されました。この時は、日本に持ち帰ることができませんでしたが、その年の11月、国賓として来日されたブータンのワンチュク国王夫妻から東京大学総合研究博物館と一般財団法人進化生物学研究所に寄贈されました。贈呈式は東京・元赤坂の赤坂迎賓館で行われ、関係者からブータンと日本との友好の証しであり、震災復興の願いが込められていることが明らかにされました。
大槌町で展示されたのは、東京大学総合研究博物館に寄贈された標本です。東京大学総合研究博物館が大槌町で主催した「先端科学でふれあうハンズオン・ギャラリー@大槌」の一環として実現しました。一般公開されたのは3度目で、東北の被災地では初めてです。展示会を企画したのは東京大学総合研究博物館助教で、共同調査隊の副隊長だった矢後勝也(やごまさや)さん(43)。矢後さんは「被災地を支援したいというブータン国王の願いにかなう展示会になりました。ブータンは『幸せの国』として知られています。今後、被災地で展示会を開き、被災者を勇気づけたい」と話しました。
展示会には多くのチョウ愛好者が訪れました。岩手県宮古市の加藤紀昭さん(72)は鑑賞後、「二度とない機会に恵まれました。美しく優雅な姿を見ることができてうれしい」と感想を述べました。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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