大和証券グループ本社の傘下、大和リアル・エステート・アセット・マネジメントが運用するヘルスケア不動産投資信託(REIT)「日本ヘルスケア投資法人」が、東京証券取引所に上場する。
介護・医療系のヘルスケアREITは、いわば政府の「肝いり」で導入整備が進められてきた。高齢化社会を迎えるなか、ヘルスケア施設の資金調達の多様化や長期安定的な経営に資すると期待されている。
今後も上場が続きそう
東京証券取引所が2014年10月1日に承認した、国内初の「ヘルスケアREIT」日本ヘルスケア投資法人の上場は11月5日(予定)。3月28日に運用の開始を発表。当初の運用規模は約90億円。全国8か所の有料老人ホームに投資し、今後はサービス付き高齢者住宅や病院にも投資先を広げるとしていた。
周知のように、REITは多くの投資家から集めた資金でオフィスビルや商業施設、マンションなどの複数の不動産を購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する仕組み。つまり、「ヘルスケアREIT」は有料老人ホームなどの施設に的を絞って投資し、その施設からの賃貸収入などを投資家に分配するわけだ。
日本ヘルスケア投資法人は、上場によって約60億円を調達。その資金で愛知県や福岡県など合計6つの有料老人ホームを新たに取得するという。
ヘルスケアREITは大和証券のほかに、三井住友銀行や新生銀行が傘下の投資法人を上場させる、といわれている。今後も上場が続きそうで、REIT市場はしばらく、「ヘルスケアREIT」に湧くことになりそうだ。
有料老人ホームなどのヘルスケア施設は、高齢化社会の重要な社会インフラ。政府は民間資金を活用して高齢者施設を拡充する考えで、これらの施設への投資を促すことで、国民生活の長期的な安心感の形成、日本に心強い未来をもたらすとしている。
実際に、ヘルスケア施設は急増している。たとえば有料老人ホームの施設数は、2008年の3569件から、2012年には7563件(うち、介護型47%、住宅型53%、入居定員は31万5678人)と、5年間に2倍超に増えた。
ヘルスケアREITであれば、金融機関からの融資などの間接金融以外の資金調達が可能になり、事業者の初期的な負担能力の軽減が図れることや、事業者に長期安定的に不動産が供給されることによって経営が安定するというメリットが見込める。また、投資家に対して十分な情報開示が不可欠となるので、運営の透明化にもつながる。
国土交通省によると、REITの先進国である米国のヘルスケアREITは、2012年までの10年間に急成長し、すべてのREITの時価総額の12%を占める規模にあるという。
多様化するREITの投資物件
ヘルスケアREITをめぐっては、東証も後押ししている。投資物件の運用先が広がることは、REIT商品の多様化につながるからで、4月にはヘルスケアREITの上場促進に向けて相談窓口を設置したほどだ。
ヘルスケア施設の物件は、オフィス用や住宅用の不動産と異なり、必ずしも立地条件が最大の付加価値ではない。提供するヘルスケア・サービスとそこで得られる事業収益によって不動産価値が決まることから、オフィス用や住宅用の市場としては厳しい地域であっても、ヘルスケア施設であれば整備できる可能性がある。
景気に左右されづらく、ヘルスケアREITが伸びるとされる理由のひとつでもある。
一方、最近はアベノミクスによる景気の回復基調もあり、不動産投資も明るい兆しにある。REIT市場は好調に推移。東証REIT指数は消費税率の引き上げ後の2014年4月15日に1452.40を付けていたが、その後は右肩上がりを続け、6月には1600ポイントを超え、9月30日には1670.89まで上昇した。そこからは、消費増税による需要の反動減でピリピリするようすはみられない。
ただ、2015年10月には消費税率が10%に引き上げられる可能性がある。ショッピングモールなどに投資する「商業系」REITや、住宅系REITにとっては「景気停滞」懸念は厳しいかもしれないが、「ホテル系」やオフィス系でも大都市部は賃貸料も下がりづらいし、倉庫などの物流系REITは一般的に「堅実」とされる。
REIT市場は政府や日本銀行の金融政策の影響を受けやすい。もし景気がよくならなければ、もう一段の追加金融緩和が実施され、REITの買い入れ枠を広げる可能性もありそう。そうなると相場が上昇する余地は、なお小さくないのかもしれない。