社員が仕事を投げ出して辞めたり、他社の引き抜きを受けたりするのは許さない――。東証1部に先月上場したIT企業「サイバーエージェント」の藤田晋社長(41)が、日経のコラムでこう「激怒」してみせた。ネット上では、そのやり方が論議になっている。
芸能人らが多数所属するアメーバブログで知られるサイバーエージェントは、現在では社員数が3000人を超えている。そんな大所帯を抱える藤田晋社長だが、退職を希望したある若手社員に対し、異例ともいえる対応を明かした。
「仕事投げ出しや引き抜きは許さない」
日経サイトの14年10月1日付コラムによると、この若手社員が会社を辞めようと有給休暇の消化に入ったことを聞き、「『社長が怒っている』という噂が社内に拡散するよう」意図的に怒ったというのだ。
その第1の理由として、藤田氏は、若手社員に新事業の立ち上げを任せていたのに、放り出す形になったことを挙げる。他社から転職のオファーがあったとしても、個人的な理由を優先して責任を放棄するのは、とても自己中心的な考えだと非難した。しかも、会社に億単位の損失を与える失敗をしたことのあるこの社員に、経験を生かしてもらおうとセカンドチャンスをあげたのに、ということも明かしている。
第2の理由としては、競合他社からの引き抜きを防ぐため、「一罰百戒」が経営上必要だからだとした。2000年ごろのネットバブル時に、サイバーエージェントでも引き抜きを行ったが、引き抜きに寛容だった業界2位以下の企業は、その甘さから1位に勝てなかった。これを知ってから、引き抜きを受けた社員にはあえて毅然とした態度を取ることにしており、その効果は絶大だという。
藤田氏のこの告白は、ネット上で、大きな反響を呼んだ。どちらかと言えば、批判的な声が多く、「社員は萎縮するだろうなと感じる」「退職者にとっては、たまったもんじゃない」「ここで働きたいと思う人が増える?」といった異論が相次いでいる。
視点が変われば意見は異なるという話?
ブログ閲覧サイト「ブロゴス」でも、藤田晋氏の発言に対する投稿がランキング上位に入るほどのアクセスを集めている。そのうちの1つ、ライターのかさこ氏によるブログでは、「社員が会社を辞めるのは自由なのに、転職社員をNIKKEIで罵倒し、魅力のなさを公言してしまった」と批判した。
かさこ氏は、社員は経営者にも会社にも魅力がなかったから辞めたのであって、今回罵倒されたため辞めてよかったと思っているのではないかと指摘した。藤田氏の発言は、「まるでふられた彼女に対する恨み節」だとして、社内で怒るのはいいが、公の場で罵倒するのは勘違いだと言っている。藤田氏がそれでも発言したのは、「共感してくれる老害読者が日経新聞には多いと思ったからだろう」と皮肉っている。
一方、ブロゴスでアクセス上位になったファイナンシャルプランナー中嶋よしふみ氏のブログでは、藤田氏の発言について、「正しすぎる」と擁護する論陣を張った。
中嶋氏は、批判や炎上も承知のうえで、藤田氏がメディアを通じて社員にメッセージを送って引き抜き抑止を狙っているとみる。人出不足のIT企業では、人材流出を放っておけば経営者失格であり、嫌われ役を買ってでも会社を成長させるべきだという。藤田氏は、発言によるメリットを意識しており、「一代で上場企業を築く社長の感覚はこんなにも凡人と違う」とした。「芸能人のブログを読む人や、ソーシャルゲームをやる人は日経新聞を読む層と全くかぶっていない」として、マイナス効果はないとみている。
こうした主張については、ネット上でも、「大企業の経営者としては至極正しい」「最初から炎上込みで計算通りだった気はする」などと共感する声も聞かれた。
一方で、「経営者視点で見れば藤田寄り多数だろうし、社員から見れば退職者寄り」「視点が変われば意見は異なるという話」といった見方も出ていた。