政投銀の民営化さらに先送り? 「官の復権」、懸念する声も

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   小泉純一郎政権の構造改革の象徴の一つである政府系金融機関の民営化に黄信号がともっている。安倍政権は、日本政策投資銀行の政府保有株式売却の先送りを検討し始めたのだ。

   政府の経済対策、中長期の安定資金の供給など「大義名分」には事欠かず、官の復権を懸念する声も根強い。

すでに2度も先送り

「民に投げる」か「官に戻す」か...(画像は日本政策投資銀行のホームページ)
「民に投げる」か「官に戻す」か...(画像は日本政策投資銀行のホームページ)

   政府系金融機関は政府が出資し、政策目的に沿って長期資金や中小企業向けの融資を行い、戦後の日本経済の高度成長を支えたとされるが、規模の肥大化で「民業圧迫」と批判され、小泉政権が2005年に統合・再編方針を決定した。これに沿って2008年に日本政策金融公庫が発足(国民生活金融公庫、中小企業金融公庫などを統合、2012年に国際協力銀行=JBICは再独立)。政投銀と商工組合中央金庫は2008年に株式会社化され、完全民営化されることになった。

   具体的に、政投銀は2015年度から株式を売却し、2022年度までに完全民営化することが現行の政投銀法で定められている。ただ、同法付則に、2014年度末までに「組織の在り方を見直し、必要な措置を講ずる」とあることから、民営化先送りが議論になっている。

   民営化に消極的になる理由はある。政投銀は、経済危機など緊急時に企業の資金繰りを下支えする役割のほか、リスクの大きい中長期資金を供給しており、今後もこれを継続すべきだというのだ。同じく商工中金も、政府保有株の売却時期などを2014年度末までに固めることになっているが、地方経済の立て直しに向けて公的金融維持の声が根強い。

   実は、政投銀は当初、2015年までに完全民営化する方針だったのが、すでに2度も先送りされている。「危機対応」が理由で、2008年秋のリーマン・ショック後、企業の資金繰りを下支えするため、危機対応融資が3.7兆円に、さらに2011年の東日本大震災でも同融資が2兆円に膨らんだ。2010年に経営破綻した日本航空や原発事故を起こした東京電力など、経営不振に陥った巨大企業向けに、融資を躊躇する民間銀行に代わって融資するケースも多い。

トップに官僚が復活

   さらに、ここにきて安倍政権でも役割が期待されている。アベノミクスの「第三の矢」である「日本再興戦略」改定版(6月策定)で、企業に対して中長期的な資金を供給する環境の整備を図る方針を示しており、この流れで特に政投銀の民営化先送り論が出てきているという事情があるのだ。

   特に政投銀の民営化先送り論の背景には、原発問題があるとも指摘される。原発事故で苦境にある東電への融資のほか、原発停止で財務が悪化した九州電力と北海道電力の優先株各1000億円、500億円を引き受けた。5月発表した中期経営計画(2014~16年度)でも東電向け融資について、電力の安定供給と企業価値向上のための取り組みを支援することを明記するなど、政府の原発再稼働方針に沿って、息の合ったところを見せている。

   ただ、特に安倍政権になって、組織形態論以前に、「官」の復権が指摘される。官僚の代表的な天下り先だった政府系金融のトップは小泉改革後、続々と民間出身者に代わり、民主党政権時代もこの流れが続いたが、2013年10月に日本政策金融公庫総裁が元帝人会長の安居祥策氏から元財務次官の細川興一氏に、同年末、JBIC総裁も元トヨタ自動車社長の奥田碩氏から副総裁を務めていた元財務官の渡辺博史氏に交代。今年6月には商工中金社長も元新日本製鉄副社長の関哲夫氏の後任に元経済産業次官の杉山秀二氏が就任。民間出身者トップは、政投銀社長の橋本徹氏(元富士銀行頭取)ぐらいになってしまった。

   政投銀の民営化について、政府は近く検討会を開いて有識者から意見を聞く予定で、今のところ政府内では、民営化の方針は維持しつつ、株式を売却する時期を遅らせたり、売却にかける期間を延ばしたりする案が浮上しているほか、政府が3分の1超の株式を保有し続ける案などもある。いずれにせよ、民営化路線の停滞は避けられないようだ。

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