トップに官僚が復活
さらに、ここにきて安倍政権でも役割が期待されている。アベノミクスの「第三の矢」である「日本再興戦略」改定版(6月策定)で、企業に対して中長期的な資金を供給する環境の整備を図る方針を示しており、この流れで特に政投銀の民営化先送り論が出てきているという事情があるのだ。
特に政投銀の民営化先送り論の背景には、原発問題があるとも指摘される。原発事故で苦境にある東電への融資のほか、原発停止で財務が悪化した九州電力と北海道電力の優先株各1000億円、500億円を引き受けた。5月発表した中期経営計画(2014~16年度)でも東電向け融資について、電力の安定供給と企業価値向上のための取り組みを支援することを明記するなど、政府の原発再稼働方針に沿って、息の合ったところを見せている。
ただ、特に安倍政権になって、組織形態論以前に、「官」の復権が指摘される。官僚の代表的な天下り先だった政府系金融のトップは小泉改革後、続々と民間出身者に代わり、民主党政権時代もこの流れが続いたが、2013年10月に日本政策金融公庫総裁が元帝人会長の安居祥策氏から元財務次官の細川興一氏に、同年末、JBIC総裁も元トヨタ自動車社長の奥田碩氏から副総裁を務めていた元財務官の渡辺博史氏に交代。今年6月には商工中金社長も元新日本製鉄副社長の関哲夫氏の後任に元経済産業次官の杉山秀二氏が就任。民間出身者トップは、政投銀社長の橋本徹氏(元富士銀行頭取)ぐらいになってしまった。
政投銀の民営化について、政府は近く検討会を開いて有識者から意見を聞く予定で、今のところ政府内では、民営化の方針は維持しつつ、株式を売却する時期を遅らせたり、売却にかける期間を延ばしたりする案が浮上しているほか、政府が3分の1超の株式を保有し続ける案などもある。いずれにせよ、民営化路線の停滞は避けられないようだ。