東京都を中心に店舗を展開する高級スーパーの「成城石井」を、コンビニエンスストア大手のローソンが買収する。ローソンが2014年9月30日に発表した。
ローソンとともに成城石井の買収を争ったとされるのは、流通大手のイオンや、百貨店の三越伊勢丹ホールディングス(HD)やエイチ・ツー・オーリテイリングといった、錚々たる顔ぶればかり。モテモテの成城石井だが、いったいどんなスーパーなのか。
えっ!「高級スーパーではありません」?
「成城石井」は1927年創業の老舗。高級住宅街として知られる東京都世田谷区成城で、食品スーパーとしてスタート。ワインやチーズなどの輸入食料品を多数そろえる、高級志向のスーパーマーケットを展開する。
そんな「高級スーパー」のイメージが定着している成城石井だが、じつは社長自らが高級スーパーであることを打ち消している。
日本経済新聞(2014年8月11日付)は、成城石井を「脱デフレの優等生」と、評した。同社が2000年代後半のデフレ時代に安売り競争に組みすることなく、商品を値下げせずに業績を回復したからだ。
それが現在の好調につながっているのだが、原昭彦社長は好調の秘密について、「われわれの店は『高級スーパー』という捉え方をよくされる。たしかにワインやチーズ、コーヒーといった嗜好品に強いが、われわれの持ち味は高級食材を売ることではない」とコメントしている。
同社の人事ブログによると、成城石井の経営理念や行動指針が書かれている冊子「成城石井BASIC」にも、「高品質な商品をお求めやすい価格で提供します」「他社と同じ商品なら安い価格を目指します」などと記されていて、他にはないような、「おいしいにこだわった、安心・安全な商品」を提供。よりこだわった商品を、より安い価格で提供するために、おいしい食材の発掘から輸入、製造、販売までを、自社で独自の仕組みをつくり、実行しているというのだ。
さらには、店員の「いらっしゃいませ」などの日常的なあいさつやレジ対応も、「毎日気持ちよく行っていれば固定客が確実に増える」といい、そのために社内スクールで数十種類のワインやチーズを味わって接客に役立てる、商品知識や接客スキルの習得にも力を入れている。
なにやら、オーソドックスな小売業のスタイルが魅力のようでもあるが、これが成城石井の強みなのだ。
多店舗展開で、高級スーパーとしての「希少価値」が薄れた
成城石井が評価されるのには、他にも理由がある。
店舗面積が狭い店でも3000~4000アイテム以上がそろい、かつ高級食材や輸入食品など高価格帯の品ぞろえが充実。それが一般のスーパーと比べて、高い営業利益率を維持することにつながっている。決算公告によると、2013年12月期の連結売上高は544億円(前期比5%増)、営業利益は33億円(同6%増)。営業利益率は約6%の水準(一般のスーパーの利益率は2~3%)にある。
2014年12月期の連結売上高は、前年比10%増の601億円、営業利益は45%増の48億円を見込んでいて、都市部の富裕層の需要を取り込み、好業績が続いている。
店舗網が、東京や中部、近畿の都市部という立地のよさもある。
ただ、成城石井は2004年に創業家がレックス・ホールディングス(HD、現レインズインターナショナル)に株式を売却して以降、多店舗展開を強力に推し進め、従来の富裕層の多いエリアよりもターミナル駅の駅ナカ・駅ビルへの出店を加速させた。
2011年5月にはレックスHDが三菱商事系の投資ファンド、丸の内キャピタルに事業を売却。商業施設などからの出店依頼が増え、13年3月のイオンモールむさし村山店への出店で、100店舗の大台に到達した。現在は約110か店(13年)を展開する。
買収を決めたローソンは、コンビニ事業と、「成城石井」の看板を生かした高級スーパー事業とで相乗効果を狙うとみられる。ただ、高級スーパーのブランドイメージは多店舗展開するほど希少価値が薄れる。100店舗を超えて、一部には「すでに薄れはじめている」との指摘もある。
ローソンが成城石井を買収した金額は、負債も含め550億円超。当初の入札では金額面などが折り合わず不調に終わったが、丸の内キャピタルが、三菱商事が大株主のローソンと再び協議し、双方が折り合ったとされる。
「高級スーパー」のイメージの希薄化に加えて、円安による輸入コストや人件費の上昇、消費増税に伴う消費低迷の懸念など、経営環境はこれから厳しくなるのではないかとの見方もある。