トヨタ自動車グループ各社の労働組合で構成する「全トヨタ労働組合連合会」(313組合、33万人)は2014年9月12、13両日に名古屋市内で定期大会を開き、2015年春闘に向けて、労働条件の維持・向上を目指す方針を確認した。賃金水準を底上げするベースアップ(ベア)を2年連続で統一要求する方向だ。
春闘相場をリードするトヨタグループだけに、今後の動向が注目される。しかし経営側には2年連続ベアに慎重論も根強く、来年3月の決着に向けてギリギリの駆け引きが続く。
業績予想は最高益更新を見込む
全トヨタは大会2日目の13日、8年ぶりのトップ交代を正式決定し、東正元氏が会長を退任し、後任に佐々木龍也氏が就任。新体制で来年の春闘に臨むことになった。
東・前会長は12日の記者会見で、「組合員の貢献による業績改善の流れが続く。賃上げを判断する環境は整っている」と述べた。細部の詰めは新体制に委ねられるとはいえ、2014年春闘に続き、全トヨタとしてベアを統一要求するものと受け止められている。
トヨタは2014年3月期連結決算で、6期ぶりに過去最高益を更新。グループ世界販売台数は初めて1000万台を超え、リーマン・ショック後の不調から完全復活を果たしたと言える。2015年3月期の業績予想も、成長速度は鈍るものの、最高益更新を見込む。こうした復活ぶりは、グループ各社にほぼ共通する。
2014年春闘では業績改善に加えて安倍政権の経済政策「アベノミクス」の後押しもあり、トヨタ自動車がベア相当分として月額2700円を回答するなど、大手メーカー各社が6年ぶりにベア実施に踏み切った。リーマン・ショック以降、組合側の要求からも外されていたベアが復活し、春闘の風景が一変した。
2014年春闘と違う経済環境
アベノミクスというと聞こえはいいが、私企業内の議論への政府の介入でもある。組合側としては複雑な心境でもあるが、2014春闘で反転した攻防の流れを維持したい考えだ。上部団体の自動車総連や電機連合も既にベアを打ち出す構えを見せている。
東・前会長は消費増税や物価上昇という現状を踏まえ、「景気が腰折れしかけている。賃金が上がらないと経済は完全に折れる。(2015年春闘は)間違いなく(2014年春闘より賃上げの)重要性が高まっている」と強調した。昨年4月に始まった日銀による異次元緩和が呼び寄せた円安により、円建ての輸入価格が上昇したことを主因に国内物価は上昇を続けている。さらに今年4月には消費税率が5%から8%に増税されたことで、消費者の実質所得は減少。増税と物価高はじわりと消費者心理にダメージを与えており、消費税率10%への再増税に対する慎重論も根強い。
こうした中、ベアを続けないことには景気が悪化する恐れがある、という組合側の主張には一理ありそうだ。しかし、経営側としても世界的な競争環境が厳しくなる中、「賃上げすることで国内生産を維持できなくなる」(自動車大手幹部)と譲らない構えも見せる。業績下方修正を繰り返すソニーの名をあげるまでもなく、日本の電機メーカーにかつての輝きはない。自動車メーカーも円安の恩恵が一巡し、業績の伸びが継続的に見込める状況ではないのも事実だ。
2014年春闘で賃上げを強力にプッシュした政府も、2015年春闘では「もっと(賃上げを)しろと政府が言うべきではない」(麻生太郎財務相)などとやや腰が引けた印象だ。 来年3月までの長い綱引き。ある程度結果が見えていた2014年春闘と違い、日本経済の先行き不透明感を反映して、厳しい攻防となりそうだ。