運転開始から40年経過した古い原発の廃炉問題が注目されている。政府は2014年内にも、電力会社に老朽化した原発を廃炉にするか延命させるかの決断を迫る方針だ。
電力会社は経営に大きく影響するだけに、対象をどう絞り込むか、難しい判断を迫られている。
運転延長のハードルが一気に上がった
九州電力の川内原発1、2号機(鹿児島県)が原子力規制委員会の安全審査をパスし、再稼働に一歩前進する陰で、電力各社が頭を痛めるのが老朽原発の扱いだ。老朽化した原発でも長く運転すれば、巨額の建設コストを回収した後は発電するほどもうかる道理だ。
だが、東京電力福島第1原発事故で状況は一変。2013年7月から、原発の運転期間は原則40年とされ、最長20年の延長は可能だが、古い原発でも厳しい安全基準を満たす必要があり、運転延長のハードルが一気に上がった。
具体的には、2016年7月時点で運転開始から40年を超える原発を延長する場合、2015年7月までに「特別点検」を行って規制委に申請しなければならない。その基準はまだ示されていないが、全ての核燃料の取り出しや数十トンの炉内構造物の撤去など大がかりな作業が必要になる。ただでさえ、老朽原発は機器の劣化が進んで安全上の余裕が少なくなっているし、可燃性ケーブルを不燃化するなどの対応も必要とされ、1基当たり1000億円規模の対策費が必要と言われる。発電を続けても、これだけの額を回収できる保証はない。
既に関西電力が、運転開始42~43年を経過している美浜原発1、2号機(福井県)について、廃炉の検討に入っているほか、九州電力が玄海1、2号機(佐賀県)、中国電力は島根1号機について「廃炉も選択肢」との姿勢。さらに、日本原子力発電の敦賀原発1号機、関電高浜原発1、2号機(いずれも福井県)も40年超に到達する。
小渕優子経産相は「廃炉・再稼働セット論」を明言
年数と共に規模も大きなポイントだ。前記8基のうち、美浜1号機の出力34万キロワットをはじめ、40年に達しない玄海2号機を含む多くが50万キロワット前後かそれ以下で、現在の標準の半分程度の規模。再稼働しても収益への効果が小さい。8基の中で高浜1、2号機は各83万キロワットと比較的大きく、廃炉判断に迷うことになりそうだ。
いずれにせよ、電力各社にとっては原発の再稼働が、経営上の至上命題だけに、経済産業省などは「世論の原発への風当たりがなお厳しい中、『古いものは廃止する』という姿勢を明確にすることで、再稼働への理解を広げたい」との狙いがある。
小渕優子経産相は「円滑な廃炉と、安全性が確認された原発の再稼働を併せて推進したい」(5日)と、廃炉・再稼働セット論を明言した。安全対策上も、「古いものは廃炉にして、新しい炉に専念してほしい」(規制委)との声もある。
廃炉でダメージを受けるのは交付金がなくなる立地自治体
ただ、廃炉には大きく、3つの課題がある。第1が電力会社に巨額損失が出ること。本来、原発は廃炉が決まった時点で資産価値がゼロになり、電力会社はその分を損失として計上する必要がある。前記8基すべてを廃炉にすると、その時点で計2000億円超の損失が一度に発生するとされ、廃炉にしたくてもできない事態になりかねない。
そこで、経産省は昨年、会計ルールを見直し、原子炉格納容器など廃炉に必要な施設や設備は資産としての価値が残っているとみなし、何年もかけて分割して処理できるようにするなどの対策を取ったが、それでも、廃炉を決めた年度に1基あたり百億円単位で特別損失が出る。
第2に、解体後の放射性廃棄物の処分が決まっていないという問題がある。電力会社の試算では、110万キロワット級の原発を廃炉にすると建物など約50万トンの廃棄物が出て、うち1.3万トンが放射性廃棄物だが、処分場のめどは立っていない。なかでも、制御棒や原子炉内の部品など、放射能レベルが高い廃棄物の処分には百年単位の長期管理が必要だが、処分に関する国の基準作りは進んでいない。
廃炉で国からの交付金がなくなる立地自治体への支援策という3つ目の課題もある。
いずれにせよ、電力各社は廃炉と運転延長に要する費用を天秤にかけ、最終的に判断することになる。