「プロパガンダのための暴力シーンは報じない」
日本のメディアではそもそも「遺体」映像はご法度とされている。ただし海外では事故や災害報道で遺体の写真や映像を使用すること自体はめずらしくない。東日本大震災でも、遺体が映る衝撃的な光景をいくつも報じていた。
ではなぜ、イスラム国の残忍な映像については、詳細に報じないのだろうか。フランスの通信社AFP通信のニュースディレクターは「『イスラム国』の斬首動画が報道機関に突きつけた課題」と題したコラムで見解を示している。課題とは「暴力のプロパガンダに利用されないように。そして犠牲になった人の尊厳も守りながら、過激派が公開する写真や動画をどこまで報じるのかという問題」だ。
イスラム国が支配する地域は活発な戦闘状態が続いており、記者が入ることは難しい。そのため、現地の情報はイスラム国が発信するものを頼らざるをえないのが現状だ。「IS(編注:イスラム国)が公開するプロパガンダのための写真や動画だけが、私たちがあの地域で何が起きているのかを知る唯一の情報源」だと説明し、人質の生死に関する判断材料になるという。
しかし、同社が斬首の場面をそのまま流さなかったのは「プロパガンダのための暴力シーンは報じない」という方針からだ。また、ネット上で誰でも見ることができるからといって全編を公開することは、情報を「分析して編集する」という自らの役割を果たしていないと否定する。
同氏はBBCやロイター通信などに話を聞き、動画をいっさい公開しないという見解もあったという。その上で、どこまで報じるのかという問題に「完璧な正解はないだろう」としている。