来年は新しいチーム作り、田中は投手陣の中心に
翌日の試合前、田中はチームより早くグラウンドに姿を見せ、軽いキャッチボールを行った。従来通りのルーチンワークなのだが、気になるヒジへの異状はなく、次回の登板は27日に決まった。
ジラルディ監督はほんとうに安心していた。
「故障前と変わらないピッチングを見せてくれた。さすがだ」。
田中が故障者リストに入ったのは7月。診察を受け、懸念された手術は回避された。その後、治療プログラムに取り組んだ。キャッチボール再開となると、監督がつきっきりで経過を確認していた。
日本だったら、おそらく田中は今季の登板はなかっただろう。大リーグはちょっと違う。来年まで投げられるかどうか分からないと、投手スタッフの編成ができなくなる。来年も投げられることが確認できれば、それが容易になる。
このことは同僚の黒田の契約にも影響を及ぼす。田中に不安が残れば黒田残留は強くなるし、そうでない場合は黒田の年齢から考え、大胆な若手切り替えに踏み換える可能性が出てくる。ヤンキースは主力投手の故障者が相次ぎ、無名の若い投手をトレードなどで集め、後半戦を戦ってきた。
今季限りでジーターが引退することもあって、ヤンキースの来年は新しいチーム作りに入るはずである。田中は投手陣の中心になることは間違いない。
田中の代理人も故障に驚いたはずだ。契約問題でヤンキースと新たな交渉をする必要が出てくる。この点も日本と異なるところである。高額契約の裏側では、故障などアクシデントの場合には厳しい条件がつけられている。田中の1球はいろいろな方面に響く。これが大物の証明なのである。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)